日本留学後24歳で独立。注目の中国Z世代ファッションデザイナー、1年で急成長の秘密
10代~20代の女性に人気を集めるファッションブランドを運営する夫婦デザイナー、席林鴻(セキ・リンコウ)さんと陳星諾(チン・セイダク)さん。弱冠24歳の若さで、しかもコロナ禍の2020年3月に自身のブランドを立ち上げてタオバオに出店し、わずか1年で急成長。7月25日まで開催されていた年に一度のクリエイターの祭典「タオバオ・メーカー・フェスティバル」(淘宝造物節)に出展することとなった。実は二人とも学生時代、日本のファッション専門学校へ留学した経験を持つ。いつかは自分のブランドを、と考えていたものの、他の学生と同様にまずはデザイン事務所などで実績を積んでからの予定だったという。なぜ若くして独立するに至ったのか、また、日本への留学経験が現在のデザインや経営にどのように活かされているのか直撃した。
―――まずは自己紹介をお願いします。
ファッションデザイナーの席林鴻(セキ・リンコウ)と申します。96年生まれで現在25歳です。易碎商店(Fragile Heart)というファッションブランドを、妻の陳星諾さん(チン・セイダク)と共同で運営しています。
―――なぜファッションの道を選んだのでしょうか。
祖父が服の仕立てを、両親が服飾関係の仕事をしており、ファッション一家で育ちました。だからファッションの道に進むのは自然なことでしたね。大学は、服飾デザインや繊維に強い上海の東華大学を選びました。
―――日本への留学経験があるそうですね。
東華大学が国際交流に力を入れていた関係もあり、アジアNo.1と言われる日本の名門ファッション専門学校「文化服装学院」に2年間留学していました。最初はほとんど日本語が話せなかったのですが、周りの友人たちや先生が熱心にサポートしてくれたおかげでなんとかなりました。文化服装学院には、トップレベルの優秀学生に送られる「学院長賞」があるのですが、なんと初年度にその賞をいただくことができました。
文化服装学院にはファッションモデル志望の方も多く通っているのですが、私の身長が高かったこともあり、モデルにも誘われました。友人たちに教えてもらいながら日本のブランドのファッションショーにいくつか出演し、なんと上海ファッションウィークにも出演しました。チームで何度も試行錯誤を重ねてデザインした服を着て多くの人から注目の集まるランウェイを歩き、緊張と興奮で倒れそうでしたが、非常に良い経験でした。
―――なぜ卒業後すぐに独立し、ブランドを立ち上げたのでしょうか。
両親が自身のブランドを持っていたこともあり、いつかは自分も、とは考えていました。ただ実は、卒業後すぐに立ち上げようとは考えていませんでした。実績もないですしね。最初は独立系デザイナーズブランドに見習いとして就職し、数ヶ月働いていました。
働きながら、ブランドを立ち上げる夢のために、市場リサーチはしていました。留学していた文化服飾学院には市場リサーチの授業があったので、そのとき学んだことを活かしつつ、タオバオで検索して他社ブランドを調査したりしていました。
リサーチしている中で、今後1~2年でモノトーン・スタイルが流行するという有力な仮説を発見しました。自分に実績はありませんでしたが、せっかく見つけたトレンド予測の波に乗るなら今しかないと思い、なかば勢いで独立してブランドを立ち上げました。
―――コロナ禍の2020年3月に、ブランド旗艦店をタオバオで立ち上げていますね。なぜ最初の出店先としてタオバオを選んだのでしょうか。
ファッションブランドを持つ両親もタオバオに出店していますし、タオバオは中国随一のECでユーザーもたくさんいます。ほかのECと比較して若いデザイナーズブランドのショップが多く、自分のブランドのターゲットとなる方々が多く使っているのではないかと考えたのも理由の一つです。
また、タオバオは起業や出店のハードルがほぼゼロだったからです。店舗運営のために一定のコストはかかりますが、会社の登記などの手間や、実店舗を持つための家賃の支払いは
かかりません。自分がデザインした何着かの服をアップして、購入してくれる方がいるかどうかテストする使い方もできます。日本や海外で受賞した実績を持つ日本の友人はたくさんいますが、彼らが日本でビジネスを始めるための選択肢は少ないように思います。こういった中国特有の小売・流通の環境も、私が独立を決意できた理由だと思います。
―――出店した手応えは。
タオバオの担当者が親身になってブランドの成長を考えてくださって、キーパーソンに繋いでくれることも良いと感じました。若い起業家を、年上の方々が応援してくださる心強さがあります。中国にも実店舗はありますが、この世代間コミュニケーションの垣根の低さはECならではだと思います。
―――立ち上げたブランドに込めた意図と、ファンの反応を教えてください。
他人の目を気にしてしまう、しかし「私は私でありたい」Z世代の女の子のためのブランドを立ち上げました。デザインコンセプトはモノトーンで、ブランド名はガラスの心臓(易碎、Fragile Heart)という意味です。壊れやすい思春期の心と、まだ実績もなく不安定な自分の立ち位置を掛け合わせて名付けました。
購入してくださるファンは、30歳未満が9割を占めています。18歳未満(2000年代以降生まれ)が15%、18〜24歳(Z世代)が62%、20代後半が13%で、地域としてはファッション感度の高い1級・2級都市の方が8割です。
―――新商品の企画や店舗運営はどのように進めていますか。
ファンの年齢層に合わせて、チームメンバーに若い人を積極的に採用しています。90后(1990年以降生まれ)、00后(2000年以降生まれ)のメンバーが多く、ほとんど25歳の私より年下です。
基本はタオバオの販売状況データを参考に、新商品の企画や店舗運営を行なっています。しかしそれだけでなく、きちんと一人ひとりのファンの声と向き合ってニーズを探っています。
―――今後の展望を教えてください。
実は私は、川久保玲(かわくぼ・れい)さんという有名な日本のファッションデザイナーを非常に尊敬しています。彼女は自身のブランドの展開だけでなく、若手デザイナーのサポート、育成、ブランド立ち上げ支援など、ファッション業界全体の活性化につながるような活動をおこなっています。彼女のように、後輩の育成に貢献できるような、ファッションアイコンの一つとなるようなデザイナーになることが最終的な目標です。
直近では、実店舗の開設を計画しています。タオバオ上でファンのいる都市、具体的には上海、北京、杭州、武漢、長沙、成都、重慶などの一、二級都市が候補なのですが、オフラインでもビジネスを拡大していきたいと考えています。
新しい実験としてコラボ企画もたくさん仕掛け、ブランドの可能性を拡張していきたいとも考えています。今回のタオバオ・メーカー・フェスティバルでもほかの出展者とのコラボ企画を実施しましたが、このようなお墨付きのあるきっかけがあると実現しやすいと思いました。アリババのタオバオ担当者からこのような出展の機会をいただけて、非常に光栄に思いますし、今後もこのようなご縁を大切にしていきたいです。
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