“カネ”よりも“好き”を追う!中国新世代スタートアップの創業物語

取材・執筆:高口康太 

今年で5年目を迎えた、アリババグループの奇祭「タオバオ・メーカー・フェスティバル」とはなにか? とても商売にならなさそうな事業者をかき集め、まるで文化祭のようにわいわい騒ぐイベントに、アリババはなぜ大金を投じるのか。それはマーケットプレイスのタオバオを、「売る」場所から「造る」場所へと再定義するための試みである。

と、ここまでが本連載第1回の「なぜアリババはタオバオ・メーカー・フェスティバルを開催するのか」で語った内容である。では、実際にどのような出店者が「造」っているのか、ビデオ会議による取材に応じた2組をご紹介したい。

 

ゴミ拾いから芸術家へ

 

男の子心がくすぐられる、あるいは厨二病が刺激される写真ではないだろうか。「世紀末ディストピア調レトロオープンカー」というコンセプトらしく、まあ男の子が好きなものをてんこもりにした構成であることは間違いない。

このオープンカーに本物っぽい質感を与えているのは、廃棄されたバイクの部品からくみ上げられたためだろう。知る人ぞ知る上海市の老舗バイクメーカー「幸福」の製品が使われている。30年近い車歴の骨董品を2台組み合わせたので、「60年の車歴になりますね」と制作者の呉陽徳さんはうそぶく。車の後ろで腕組みをしている男性が呉さんだ。

呉さんのタオバオショップ「呉陽徳手作」を見ると、メカメカしいランプなど、厨二病を刺激するアイテムがずらりと並んでいる。ショップ名に「手作」と入っているが、いずれも古いバイクの部品を使った、一点物の芸術品だ。

「芸術品っていうか、バイク部品のコレクションをそのままにしておくのも無駄だな~と思って。それで作品を造るようになっただけなんです」と呉陽徳(ウー・ヤンダー)さん。彼の経歴を聞くと、いわゆる芸術という言葉から想像されるものとはまったく異なる人生を送っていた。

呉さんは1987年、安徽省の出身だ。2000年から上海市に移り住んだが、学校にあわず中学1年生で退学してしまう。その後数年はゴミ拾いや駐輪場の管理員で生計を立てていたが、他人のバイクを見ているうちにバイク好きになったのだとか。そこでバイクメーカーに就職。2009年からは独立してバイク修理店を経営するようになった。

いくらバイク好きでも、高級バイクを買い集めるような稼ぎはない。その代わりといってはなんだが、古いバイク部品をコレクションするようになり、ただ集めているのもなんなので部品を使った作品を造るようになり……といった具合。芸術家を目指したわけでも、ビジネスのためでもなく、「バイク好き」「部品かっけー」「放置しとくのももったいないからなにか造るか」という好きと衝動だけで進んだ結果、ここにたどりついたのだとか。お店に並べている作品には一応値段がついているが、本心では自分の宝物だけに手放したくないのだとか。それだけに値段も高めにつけて、基本的に売れないようにしているという徹底ぶりだ。

タオバオショップを開設したのは昨年のこと。「友人に勧められて、昨年のタオバオ・メーカー・フェスティバルを見たんです。なんかもう、いろんな謎なものが出展されていて、これはすごいな、と。いや、私は実年齢33歳ですけど、心はローティーンなんで(笑)。びびっときてお店を造っちゃいました」

呉さん本人も自らの厨二病には気づいていたようだ。

 

ゆるふわスタートアップと世間の荒波

呉さんは「好き」だけで突き進んでいるが、タオバオ・メーカー・フェスティバルの出店者全員が商売っ気ゼロというわけではない。

「もう300万元(約4500万円)突っ込んでますから!私たちも必死です」

太妃TAFFEEの黄●曦(ホワン・ランシー、●は欄の木へんを文へんに変えたもの)さんの言葉だ。電話ごしにもその必死さは十二分に感じられた。インタビューがはじまるやいなや「まず商品をご説明させてください」から始まり、その後まるまる5分間、こちらが一言も口を挟む余地なく、セールストークが続いたのであった。

太妃TAFFEEは2018年末に成立したばかりのスタートアップ企業だ。その事業はペット飲料品の販売。犬向けの汪茶(ワンワン茶)、猫向けの「喵茶」(ミャーオ茶)が主力商品だ。お茶とはいうものの、ミルクティーっぽい見た目をしているだけで、羊のミルクや鳥肉などを原料としている。今回のタオバオ・メーカー・フェスティバル向けにはタピオカに見立てた魚卵を入れることで、猫版タピオカ・ミルクティーという新商品を開発してきた。

猫向けのお茶「MIOCHA」というオリジナル商品

このペット向けのお茶だが、一応、栄養成分も含まれているし、普通の水よりもペットが喜んで飲むので水分補給に効果的という触れ込みはあるのだが、最大の楽しみはペットと主人が一緒にお茶できるという点にあるだろう。

「古い世代にとってペットは動物ですけど、私たちの世代にとってペットはファミリー。一緒の体験ができることがなによりの楽しみなんです」と黄さん。実際、タオバオ・メーカー・フェスティバルでは出店者は6つのバーチャルパビリオンに分けられたが、うち1つはペット館だ。それだけペット向けの新規事業者は多いし、注目も高い。TAFFEE以外にも「猫酒」(ハッカを原料とした、ネコが喜ぶ飲料とのこと。ペットと晩酌を楽しみできるという商品)や、ネコ用のウェディングドレス、ネコ用の漢服(伝統衣装)といった出展が目を引いた。

TAFEEの黄さんは1995年生まれの25歳。「ペットと一緒にお茶を飲みたい」というゆるふわなニーズの商品を販売しているので、呉さんと同じくお金には興味がない系なのかと思いきや、どうしてどうして、がっつりビジネスをしているのであった。

「私を含め、TAFFEEの創業メンバー4人は25、26歳と若いし、みんなペット好きがこうじて起業を決めました。でも、世間知らずというわけじゃないんです。みんな仕事の経験もあります。私だって起業する前は会社員でしたし、オーストラリア留学中にソーシャルバイヤー(個人輸入代行)の仕事をやっていたこともあります。それに今回が初めての起業じゃないんです。以前にはブロックチェーン技術を使ったデジタル犬登録システムで起業しました。失敗しましたけど(笑)。だから今回は絶対に失敗できないんです」

怒濤のようにしゃべり続ける黄さん。聞くと、「ペットと一緒にお茶したい」というコンセプトもマーケットリサーチのたまものなのだとか。中国もすでにペット市場はレッドオーシャン、さらに日本など海外でもすでに多くの企業が参入しており、ネコ大喜びのキャットフードなどはいまさら参入しても勝ち目がない。

「ペット大好き、ペット関連の仕事がしたい」という好きの気持ちと、生き馬の目を抜く競争が渦巻く、過酷な中国ビジネスとの狭間に生まれたのが、ネコ専用のタピオカ・ミルクティーだったというわけだ。

 

「好き」を仕事にする、中国の「新しい起業」

中国は起業の国である。起業といっても、なにも「すごいベンチャー」ばかりではない。就職できないから小商いを初めてみたから、海外名門大学帰りのエリートによるテックベンチャーまで多種多様だが、ともあれ起業することが決して珍しくないという点では共通している。

その起業のあり方が最近、変わりはじめている。他に食えないから、あるいはがつんと稼ぎたいからという金銭的動機がかつてのパターンだが、最近では「好きだから」「みんなの悩みを解決したいから」という個人的動機や社会的課題に突き動かされた起業が目立つ。

その背後にあるのは中国社会の転換だ。特に新しい起業を支える若者たちの文化、ユースカルチャーは注目に値する。タオバオ・メーカー・フェスティバルをめぐる連載、最終回となる次回は、中国のユースカルチャーに光を当てる。

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