独自スタイルを崩さずに越境ECで中国市場へ、ドモホルンリンクルの挑戦

解説:

中国のルールと文化に合わせつつも、自分たちの流儀を貫く。相反する命題を同時に解く難しい課題だが、再春館製薬所は輸入規制のハードルが低い越境ECと、消費者とのコミュニケーション機能が豊富なTモールの活用によって、乗り越えようとしている。

 


「うちは変わった会社なんです」

化粧品ブランド「ドモホルンリンクル」で知られる再春館製薬所はどんな企業なのか。同社の大庭博人(おおば・ひろと)取締役執行役員、経営本部兼海外本部本部長は「変わった会社」をキーワードに話し始めた。

同社は1932年の創業。神経痛や関節炎の薬である痛散湯など、漢方医薬品メーカーとしてスタートした。1974年には日本初のコラーゲン配合美容クリームである「ドモホルンリンクル」の開発に成功した。インパクトの強いテレビCMの影響もあり、「ドモホルンリンクル」は誰もが知っている有名ブランドとなった。

では、どこが「変わっている」のか?

再春館製薬所は創業以来、一貫して熊本県に本社、工場を置いている。東京ドーム6個分という広大な敷地を持つ再春館ヒルトップには本社機能、工場、テレマーケティングセンターを集約している。

再春館「太陽の畑」:写真は熊本にある再春館本社の建物。その壁面や屋上のほか、広く周辺地区にも及ぶメガソーラーシステムは『再春館「太陽の畑」』と名付けられた。この発電設備によって、再春館ヒルトップ年間使用電力の100%にあたる電気が提供されているとのこと。

 

テレマーケティングセンターも同一拠点にあるのには理由がある。再春館製薬所は電話やFAX、ネット注文などによるダイレクトマーケティングを主軸に販売しているが、たんなる通信販売ではない。顧客一人一人の悩みや要望を担当者が聞き取り、コミュニケーションによってリピーターをつかんでいく。このスタイルは海外販売でも変わらない。香港、台湾、タイからの電話注文も、熊本の従業員が応対するという徹底ぶりだ。

オフィスにもこだわりがある。まるで体育館のような広いオープンスタイルで、誰がどんな仕事をしているかが一目で見わたせる。

熊本の地に根づくこと。顧客とのコミュニケーションを重視すること。社員一丸となって風通しのいい関係を築くこと。グローバルに展開してもこの手法を崩さないこと。

有名ブランドに成長した今も、独自のスタイルを崩さないのが再春館製薬所の流儀であり、世の中に流されない「変わった会社」の理由だという。

 

(動画は中国消費者向けにつくったドモホルンリンクルの宣伝動画)

看板商品の「ドモホルンリンクル」も変わっている。商品点数はむやみに増やさず、8種類だけにしぼっている。

「非上場企業ということもあり、むやみに規模を追わない経営を続けています。私たちの商品は化粧品でも医薬品でもなく、お肌本来の力を活かす、健やかなお肌作りをお手伝いするためのものです。この独自のスタイルを40年以上にわたり続けてきました」(大庭取締役執行役員)

 

独自成分の化粧品を中国消費者に、越境ECのメリット

今、世界中の化粧品メーカーが参入を目指す巨大市場が中国だ。14億人の人口大国であるだけではなく、2019年には1人当たりGDPが初めて1万ドル(約108万円*)の大台に乗った。特に上海市や北京市などの大都市圏では1人当たりGDPは2万ドル(約216万円*)を超え、先進国レベルに到達している。グローバルを目指す企業にとっては避けては通れない、重要なマーケットだ。

再春館製薬所も例外ではないが、独自の流儀を貫く「変わった」スタイルと中国市場進出をいかに両立させるかには、いくつもの課題があったという。

第一の課題は国の貿易ルールだ。化粧品を中国に輸出するためには国家薬品監督管理局で登記を行う必要がある。その際にどのような原料を使っているかを申告する必要がある。中国の化粧品原料ルールは特殊で、日本や米国では認められている成分が認可されていないことも多い。

「それだけではありません。ドモホルンリンクルは世界から集めた、独自の天然原料を使用しています。これまで使用例がないため、まず原料から登録する必要がありますが、コスト面などの問題から現実的な選択肢ではありません」(大庭取締役執行役員)

そのため、成分を変更して中国市場で販売するメーカーもあるが、再春館製薬所は今の配合が顧客にとってベストとの信念を持っているだけに、変更はできない。

 

仕込み釜を確認しているスタッフ

 

そこで越境EC(電子商取引)を使っての中国市場参入という道が選ばれた。中国の越境EC制度は個人輸入代行をシステム化したもので、中国消費者は年間2万6000元(約45万5000円*)まで、一般の関税よりも低い税率で海外商品を輸入購入することができる。また、一般の貿易よりも輸入規制が緩和されており、中国国内で認証されていない化粧品であっても販売が可能だ。

中国の越境ECプラットフォームのなかで、最大のシェアを誇るのがアリババグループのTモール・グローバルだ。再春館製薬所は今年9月、Tモール・グローバルに旗艦店をオープンした。

 

コミュニケーションの場としてのTモール

越境ECを使えば中国でも商品は売れる。しかし、それですべての問題が解決したわけではないという。

前述のとおり、再春館製薬所はたんなる通販ではなく、顧客とのコミュニケーションを重視している。自社のテレマーケティングセンターやサイトを通じて、直接顧客と接点を持っていることが強みとなっていたが、Tモール・グローバルという他社サービスを通じて同じことができるのだろうか。

「Tモール・グローバル旗艦店は売り場でもありながら、ブランドと顧客の接点でもあり、商品を理解していただく場所という機能も持っている」

再春館製薬所海外本部の伊藤文一(いとう・ふみかず)グローバル事業部長

 

再春館製薬所海外本部の伊藤文一(いとう・ふみかず)グローバル事業部長は手応えを感じたという。Tモール・グローバルの旗艦店機能はこの数年、大幅に強化されており、動画や写真、テキストを使ってブランドメッセージをわかりやすく消費者に伝える機能を実装してきた。中国では公式サイトの代わりに使われることも多い。

また、チャットやライブコマース(動画配信とネットショッピングを融合した販売手法)、旗艦店をフォローしたユーザーにメッセージやクーポンを送れる機能など、コミュニケーションについても充実している。「本当によくできた場所ですね」と伊藤部長は評価する。

 

中国市場に刺さるブランドメッセージを求めて

残る課題は「ドモホルンリンクル」というブランドをいかに浸透させていくか、だ。中国は世界中の化粧品メーカーがしのぎを削る激戦場だけに、日本市場で高い知名度を誇る同社にとっても容易な挑戦ではない。

「まずは売上目標を立てずに、中国市場について学びたい」と、大庭取締役執行役員。中国の消費者に届くメッセージとはなにか、コアなターゲットはどこにいるかなどを検証していくフェイズだという。

再春館製薬所の大庭博人(おおば・ひろと)取締役執行役員 経営本部兼海外本部本部長

 

他社とは一線を画した独自路線で成長を続けてきた再春館製薬所だが、大庭取締役執行役員は「海外で同じモデルで勝てると考えていてはダメです」と、独自モデルを守りながらも新たなチャレンジに取り組む重要性を強調した。

現在、同社のTモール・グローバル旗艦店では「基本4点(3日分)」「全8点(3日分)」「基本4点ハーフ(1か月分)」の3種類のセット商品を販売しているが、新たに代表製品である「クリーム20」を始め、全8点の本商品を単品で販売することを検討しているという。もっとも高い効果を中国の消費者に提供するためにセットでの販売を続けてきたが、チャレンジャーという立場に立たされている中国市場では効果を実感しやすい商品をまず使ってもらい、ブランドイメージを構築することが必要ではないかとの考えだ。

中国市場参入からまだ間もない中、試行錯誤が続く再春館製薬所だが、年齢や地域、買い物における志向などのユーザー分析はアリババグループの十八番。プラットフォームと手を携えながらのトライ&エラーが続いていく。

また、伊藤事業部長は世界最大のショッピングセールである「天猫ダブルイレブン・ショッピングフェスティバル」(10月下旬から11月11日にかけて開催されているアリババグループのセール)にも期待しているという。GMV(流通総額)の大きな金額に目を奪われがちだが、多くのブランドはこのメガセールを契機としてブランド認知を向上させてきた。消費者が新たなブランドと出会うためのイベントという側面も強い。天猫ダブルイレブンをどう活用するべきなのか、まずはじっくり学びたいと、腰を据えた取り組みで臨んでいくという。

 

*為替レートは1ドル=108円(2019年の統計発表時点)、1人民元=17.5円(2021年11月時点)で計算。

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