英国王室御用達のティーブランド「フォートナム・アンド・メイソン」がTmall Globalで中国市場へ進出

概要:英ティーブランドのフォートナム・アンド・メイソンは、Tmall Globalを通じて中国市場へ参入することで、コロナ禍での減速していた売り上げをいち早く回復させた。同社は今後実店舗よりも、海外向けオンライン販売が増加すると予測しており、特に富裕層が増加傾向にある中国を重要な市場と位置付け、様々なデジタル戦略を展開している。

英国ピカデリーにある本店では、コロナ禍での中国人観光客の減少を受け、デジタル戦略に注力している(写真提供:Shutterstock)

 315年の歴史を持ち、高級紅茶、ビスケット、ギフトの老舗ブランドとして知られるフォートナム・アンド・メイソン(以下、フォートナム)がデジタル戦略を活用したビジネス展開をするうえで最適な市場として選んだのは、中国でした。

 フォートナムは、英ピカデリーにある同社の旗艦店を訪れる観光客が減少する中、デジタルプラットフォームを活用した小売変革を急速に進めていきました。

 フォートナムは、13億人ものユーザーを抱える中国最大の越境ECプラットフォームであるアリババのTmall Global(天猫国際)に出店することを決めました。

 「同社はつい最近デジタル戦略を打ち出したばかりで、消費者のデジタルプラットフォームでの行動について中国市場から学ぶことが沢山あります」と、フォートナムのCEOであるTom Athron氏は語りました。

 家族経営の同社は、新たなショッピングトレンドをいかに素早く察知し、現地の嗜好に合った商品を提供できるかなどについて、多くの知見を中国市場から学んでいます。

 フォートナムの APAC地域における統括責任者のCarmen Chiu 氏は、「中国でのビジネス拡大は、私たちのグローバル戦略における要です」と語り、オンラインショッピングが根付いた中国では、全国各地でフォートナムへの人気が上昇するだろうと予測しています。

 中国の消費者は、持続可能な商品により多くのお金を支払うことを望んでおり、これは環境に優しく、より包括的であろうとするフォートナムの企業努力と一致するものです。

 Athron氏によれば、同社のグローバルでの売上に占めるオンライン売上の割合は、2年前の約10%から、現在では30~40%までに増加しています。増加の背景として、2020年8月に公開された同社ウェブサイトのリニューアルと、データに基づいた投資決定があると同氏は考えています。

 「2、3年後には、ピカデリー店舗における売り上げは30%程度になり、70%は海外かオンラインでの売上になると思います」と、Athron氏は予測しています。

すべての人のためのラグジュアリー

 英国王室御用達の老舗ブランドであるフォートナムは、「贅沢な味わい」について深い知見を有しています。

 「『贅沢』とは感情的なものであり、例えば、友人と共有するために最高品質の製品を選ぶこともその一つです」と、2019年にフォートナム香港において店舗とレストランのオープンを手掛けたChiu 氏は述べています。

 フォートナムは、今後10年間で中所得層以上の世帯数が少なくとも70%増加することから、中国市場において今こそ贅沢な買い物体験を普及させるチャンスと見ています。

 生活水準が上がるにつれて、中国の消費者は、輸入品なども含め高品質の食品を求めるようになっています。業界団体である中英経済委員会(China-Britain Business Council)によると、昨年、中国は8億280万ポンド(約1,300億円)相当の英国製の食品・飲料を輸入し、前年比12.5%増となったそうです。

 多くの高級ブランドにとってデジタルプラットフォームでいかに独自性を保つかということが、更なる飛躍をする上での課題となっています。

 この課題を解決するためにAthron氏は、単なる商品の羅列ではなく、フォートナムの実店舗にいるように感じられる売り場をデジタルプラットフォームで作りたいと考えるようになりました。

 「Tmall Globalでは、例えば独自のショップを開設して、お客様がまるでフォートナムの実店舗に来ているように感じられることが魅力でした」と、Athron氏は述べています。

中国市場では、フォートナムの編み籠が、グランピングを楽しむ都市生活者向けに登場した(写真提供:フォートナム)

 試行錯誤の繰り返しで成長するデジタルビジネス

 天猫618ショッピングフェスティバルに際しオープンしたフォートナムのTmall Globalの店舗では、中国の消費者や現地で支持される商品について、試行錯誤を繰り返しながら、日々知見を得ています。

 家族経営のフォートナムは、最新のマーケティングツールも活用し、ピカデリー店でのシェフ、ティーマスター、ソムリエによる実演やその他のイベントを、アリババのタオバオライブ(淘宝直播)通じて中国の消費者にライブ配信できるよう準備を進めています。

 Tmall Globalへの参入によって、フォートナムには、若い世代の食通たちも集まってきています。

 「私たちは、飲食を愛する人々にとって特に魅力的に感じてもらえると思います」と、Athron 氏は話します。「歴史的に、高級品とは、ある種の形容しがたい神秘性を纏っているように感じますが、これを別の言葉で表現するとしたら、それはエクスクルーシビティ(限定的であること)だと私は考えます」

 実際、フォートナムは中国市場において主に25歳から35歳の働く女性をターゲットにしています。

 「中国での事業拡大には大きな可能性があります」と Chiu 氏は語り、「それに応じて適切なビジネスパートナーを選ぶことは、そのブランドにとって重要なことです」と述べました。

地元に根付く商品の開発

 中国の消費者は、世界中のラグジュアリーブランドにとって売上の多くを占める重要な存在でしたが、コロナ禍において、中国の消費者が海外に旅行することは難しくなりました。

 現地の嗜好に合わせ、新たなトレンドに素早く対応できるよう、他の高級ブランドと同様フォートナムも、中国の消費者にアプローチするためのデジタル戦略を構築しています。

 早速、フォートナムにとって良い兆候が出ているように見えます。Tmall(天猫)では、複数の商品カテゴリーを持つブランドの中でも特にギフトとワイン&蒸留酒部門の商品が好調な売れ行きを示しています。

 Tmall Globalの健康・ウェルネス事業ならびに英国・北欧向けの食品事業開発責任者のZarina Kanjiは、「フォートナムの製品は、ゆっくりとした時間を過ごし、家族や友人と質の高い食事を楽しみたいという消費者トレンドによく合っています」と語っています。

 コンサルティング企業ベイン・アンド・カンパニーの最近の調査によると、アジアの消費者の約半数は健康を意識した商品選択をしており、欧州の27%、米国の31%よりはるかに多いことが分かっています。フォートナムのスパークリングティーは、植物成分を配合しており、このようなトレンドと合致しています。パーティーでは、シャンパンの代わりにアルコールゼロのこの飲み物を飲む人が増えており、スパークリングティーはフォートナム香港で一番売れている商品です。

 「私たちは英国のブランドですが、地元に密着していなければなりません」と、フォートナムのアジアパシフィック地域の事業を担当するChiu氏は話します。

 その他のトレンドとしては、中国の都市ではグランピングが流行中で、自宅から近距離の場所に滞在する人が増加しています。フォートナムは、Tmall Globalのオンライン店舗で、編み籠からビスケットまで、ピクニック用の華やかな商品をグランピング好きな消費者に提供しています。

 2020年12月にフォートナムに入社したAthron氏は、「フォートナムの商品には、いつも少し意外性があり、贅沢品とは何かという境界線を押し広げています」と語っています。

フォートナム香港で販売された「Bags for Life(一生使えるエコバッグ)」(写真提供:アリババグループ)

持続可能性を徹底して追求

 ラグジュアリーブランドも地球環境への影響を見直す必要に迫られています。

 1707年、アン女王の使用人であったウィリアム・フォートナムが、セント・ジェームズ宮殿から使用済みのキャンドルを回収し、溶かして再販することを思いついたのが、フォートナムの始まりでした。

 同社のピカデリーの店舗では、屋上を緑化してミツバチを飼い、地下にエネルギー効率の高いボイラーなどを設置し、環境に配慮した店舗づくりを進めています。また、同店舗では、英ブライトン地区の家族経営によるハンドメイドのイングリッシュチョコレートなど、できる限り地元で生産された商品を調達しています。

 「商品の調達先や製造工程の環境負荷などについて、お客様からより多く質問をされるようになりました」と、Athron氏は語ります。

 フォートナムは2021会計年度(2020年8月~2021年7月)に、シロナガスクジラ1頭分もの重さのプラスチックを削減しました。また、同社は、英国小売企業として初めてティーバッグを完全に堆肥化した企業としても知られています。フォートナムの店舗を訪れた顧客は紙袋か、再利用可能な「Bags for Life(一生使えるエコバッグ)」のいずれかにフォートナムの商品を入れて持ち帰ります。

 この「無駄にしない、欲しがらない」というフォートナムの姿勢が、地球の裏側にいる中国の消費者を惹きつけているのです。コンサルタント会社PWCの調査によると、中国の消費者の72%は、環境に責任を持つ企業から商品を購入するようにしていると回答しており、これは世界全体の54%よりはるかに高い数値です。

 何世紀もの歴史を持つ紅茶メーカーである同社は、「すべての意思決定に持続可能性の考え方を取り入れている」と、 Athron氏は説明します。

 「ロイヤルワラント」は、「王室御用達」を意味する称号で、古くから優れた品質の証とされてきましたが、現在では「カイトマーク」として名前を変え、環境・社会問題への取り組みを示す指標となっています。

フォートナムのピカデリー店の屋上にあるミツバチの巣箱(写真提供:ゲッティ)

パンデミックの反動

 英国でロックダウンが終了した後も、フォートナムのオンライン店舗には多くの消費者が訪れています。

 一方で、国境を超えた人の移動が徐々に再開されたことで、ピカデリー店にもアメリカや中東からの観光客がアフタヌーンティーをしに来店しており、売上を徐々に伸ばしてきています。オンラインでギフト購入の際にはピカデリー店限定のオードニルカラーのギフトボックスも選択可能です。

 Athron氏は、フォートナムのTmall Global進出が、世界第2位の経済大国である中国でのブランド知名度を上げ、中国観光が再開されたときに良い結果に繋がると考えています。また、実店舗とオンラインの両方で売上が幅広く回復していることは、フォートナムの黒字化にとって良い兆しであるとも考えています。

 「オンライン需要も衰えてはいません。次の会計年度では、過去最高の売上高を記録するでしょう」と、Athron氏は自信を見せています。

関連記事:

ネスレ、ニベア、フィリップス、中国発のイノベーションを世界展開

中国のZ世代が求める現代の健康サプリメント

Eコマース Tモール Tモールグローバル アリババ ラグジュアリー 中国進出 越境EC