肌にも地球にも優しいプラスチックフリーのコスメ、中国でのクリーンビューティートレンドを受け、仏コスメブランド La Bouche Rougeが越境EC参入

概要:中国では、プラスチックやその他人工成分を一切含まず、環境に優しい素材のみを使用したクリーンビューティーコスメの人気が高まっている。持続可能なコスメブランドとして知られる、仏La Bouche Rouge(ラ ブーシュ ルージュ)は、アリババの天猫国際(Tmall Global)への出店を通じて、中国進出に舵を切った。有名モデルの起用や人気の中国人インフルエンサー、現代アーティストとのコラボレーションを通じて中国でブランド展開を進めるなかも、「地球のため、そして私たちと子供たちの未来のためにするべきことをする」という創業者Nicolas Gerlier氏の想いは変わらない。

中国の美容市場に、クリーンビューティーコスメが登場(写真提供:Shutterstock)

 美容業界のベテラン、Nicolas Gerlier氏は父親になったことをきっかけに、プラスチック包装の山が、次世代のために守るべき地球をいかに汚染しているかをじっくり観察し、美容業界に改革を起こすことを決意しました。

 Gerlier氏は仏美容ブランドのL’Oréal(ロレアル)とPhyto(フィト)で10年間働いた後、独立し、2017年に持続可能なコスメブランドLa Bouche Rouge(以下、ラ ブーシュ ルージュ)を設立しました。彼は、「美容業界が環境に与える影響について、急に意識するようになったんです」と当時を振り返ります。

 リサイクル会社テラサイクルによると、スキンケアや化粧品には使い捨てのプラスチック包装が使われており、毎年世界中でリサイクル不可能なプラスチック包装が1200億個以上生み出され、ほとんどは焼却炉で処理されるか、海洋汚染につながっているとのことです。

 クリーンビューティとは、純粋で自然由来の成分のみを原料とする美容製品を指す言葉で、人工成分を含まず、環境に優しい素材のみ含んだコスメを使いたいという消費者の要望に応え、パラベン、硫酸塩、人工着色料、人工香料などの成分を排除しています。

 消費者行動について包括的で偏りのない情報をグローバルに提供するニールセンによると、世界の美容・パーソナルケア業界の売上成長率は、昨年2%に留まりましたが、600種類の人工成分を含まない美容製品で構成されるニールセンIQクリーンインデックスの売上は8.1%もの成長を記録しました。

 パリに本社を置く、ラ ブーシュ ルージュは、すでにヨーロッパと米国で再利用可能な口紅ケースを販売しており、今年、Eコマース大手アリババのB2C市場、天猫国際(以下、Tmall Global)に出店するクリーンビューティーブランドの一つとなっています。

 「中国の消費者は非常に目が肥えており、彼らの洗練された嗜好に合う新しい高級ブランドに関心を持っています」とGerlier氏は述べています。

クリーンビューティコスメで仕上げる自然な美しさ

 持続可能な商品をデジタルマーケットに求める中国の消費者トレンドに応じ、最大手プラットフォーム企業が環境に優しい商品を拡充するなか、ラ ブーシュ ルージュの事業展開が実現しました。

 Tmall Globalと米国で展開する越境EコマースプラットフォームKoalaの責任者であるTony Shan氏は、「持続可能性が購入の要件として消費者の間で定着化しつつある中国では、グローバルな環境基準に適合する商品への需要が急速に高まっています」と述べています。

 アリババは、2030年までにカーボンニュートラルを達成するという公約の一環として、より多くの持続可能な商品を中国の消費者に提供するとともに、環境意識の向上も促進しています。

 また、肌に塗るほとんどの成分が直接または間接的に体内に吸収されることから、中国の消費者はスキンケア商品に高い品質と効果的な成分を求めています。

 天猫(Tmall)のカテゴリー運用研究者である董思思(トー・シシ)は、「中国の美容市場で非常に人気があるのは、ヒアルロン酸やレチノイドなど、肌の悩みを効果的に解消してくれる成分です」と述べています。彼女は、同プラットフォームには自然由来成分を使用したスキンケアやおうち美容グッズに強い興味を持つユーザーが約4000万人いることを特定しています。

環境に優しい商品への需要

中国の消費者の90%が肌にも環境に優しいクリーンビューティーブランドから商品を購入したいと考えており、中国はこのような商品への需要で主要市場を先導している(出典:AlixPartners)

 多くの既存ブランドは、急増する需要にこたえ、環境に優しい製品を開発・提供しています。投資銀行ゴールドマン・サックスの調査によると、すでに世界最大の規模を誇る中国の化粧品市場は、2025年までに2019年から倍増し、1450億ドル(約18兆4000億円)の市場規模になる見込みです。

 最近、大手ブランドのディオールとエルメスは詰め替え式の口紅を商品として追加しました。また、新興コスメブランドのアワーグラス・コスメティックは、2017年から独自の再利用可能な口紅ケースを提供しています。中国国内ブランドでは、杭州のFlorasis(花西子、フローラシス)がフローラルエキスを配合した口紅を発売するなど、化粧品の中身そのものに自然由来の成分を取り入れた商品を提供しています。

値段以上の価値があるクリーンビューティーコスメ

 33色以上のカラーバリエーションを持つラ ブーシュ ルージュの口紅は、プラスチックを使用せず、廃棄される革をアップサイクルしたレザーや動物性素材不使用のヴィーガンレザーを纏った、詰め替え式の金属製容器に収められています。

 また、ラ ブーシュ ルージュはクリーンビューティーブランドとして、マイクロプラスチックの原因物質であるポリエチレンテレフタレートを一切商品に使用していません。ポリエチレンテレフタレートは、ポリエステル生地やペットボトルの主要成分で、加熱するとアンチモンという有害な金属元素が発生することで知られていますが、多くの美容商品で主要材料として使用されています。ラ ブーシュ ルージュは、代わりに、希少種のフランス産の海藻を口紅の主成分としており、ブランド創業者のGerlier氏によれば、「食べられるほど安全」なのだそうです。

上海のポップアップストアで、リップスティックのケースを眺める来場者(写真提供:ラ ブーシュ ルージュ)

 クリーンビューティーコスメは必ずしも安くはありません。ラ ブーシュ ルージュの口紅は、1本単価が40ドル(詰め替えには別途費用)で、トム・フォードやジバンシィといった有名ブランドと同じ価格帯となっています。

 しかし、この価格でも、中国市場には需要があることを調査は裏付けています。コンサルティング会社マッキンゼーの調査レポートによると、中国では80%以上もの消費者が持続可能な商品にお金を費やすことを望んでいるのに対し、アメリカでは68%、イギリスでは65%に留まっています。

 「最初の購入はやや高くつきますが、それは愛する人にのみプレゼントする特別なものという証なのです」とGerlier氏は話します。投資家も肯定的な意見を持っており、ラ ブーシュ ルージュは、数百万ドル(約6億円)の資金調達に成功したばかりです。

中国市場の開拓

 購買力平価ベースで世界最大の消費国である中国での成功は、新興企業にとって画期的な出来事となりえますが、多くの中小企業にとって、言語や物流の壁を乗り越えることは困難です。

 ラ ブーシュ ルージュは、上海と北京で開催される中国最大級のアートフェア、夏のJINGART、秋のART021などに協賛することで、中国において企業メッセージを発信・拡散しています。

 また、同社が、英国人モデルのRosie Huntington-Whiteley氏をはじめとする著名人をより多く起用したことで、中国で最も有力なインフルエンサー達はTmall Globalを利用して、数百万人の視聴者に同社の商品の魅力を訴求しました。

 「Tmall Globalでの販売開始と成功に満足しており、3月にもライブストリーミングでの実演販売を行う予定です」と、Gerlier氏は述べています。

 ラ ブーシュ ルージュは、10月にTmall Globalで試験販売した後、11月の上海のアートフェアART021開催期間中に、本格的な販売を開始しました。同月の売上は129,765人民元(約260万円)で、北京の小規模ポップアップストアの月平均売上を80%も上回っており、2022年の中国での売上目標を799,000ユーロ(約1億1000万円)に設定しています。

 2021年12月には、中国で最も有名なライブストリーマーの一人で口紅王子と呼ばれているAustin Li氏とのコラボレーションにより、海藻エキスを配合した口紅をわずか数分で1000本以上販売することに成功しました。また、中国国内の現代アーティストとのコラボレーションも消費者の関心を集めています。

口紅の新色のインスピレーションとなったXu Zhen氏の作品(写真提供:ラ ブーシュ ルージュ)

 ラ ブーシュ ルージュは、上海在住の画家Xu Zhen氏とのコラボレーションでチェリーレッドカラーの口紅を生み出し、その限定品を紹介するインタラクティブな花の展示の数々は、芸術作品そのものでした。

 中国でさらなる展開を試行するなかも、Gerlier氏の想いは変わらず、「地球のため、そして私たちと子供たちの未来のためにするべきことをする」と述べています。

 

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