新型コロナ影響で倒産危機、窮地の企業がデジタル改革で大逆転

解説:
中国では、旧正月休みの延長や飲食店やショッピングモールの一次閉鎖など強力な新型コロナ対策が導入されました。多くの企業は大きな打撃を受けています。特に一部店舗の閉鎖や来客数が激減したリテール業界は厳しい状況です。対応策として注目を集めているのがライブコマースです。動画配信とネット通販を融合した新たな手法ですが、オンライン上でも実店舗と同様の細やかな接客ができるとして人気を集めています。新型コロナという危機が中国リテール業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する契機となりそうです。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、中国の実体経済にかつてないほどの打撃を与えています。新聞を開けば営業中止、閉鎖、給与支給停止といった暗い話題が目につきます。上海市のスキンケア用品店「林清軒」も苦境に追い込まれた企業です。

 林清軒は北京市、上海市、広州市など、100あまりの都市に、337ものショップを展開しています。しかし、新型肺炎により1月末には157店舗が営業を停止しました。残る店舗の業績も振るわず、旧暦1月1日から7日(2020年1月24日から30日)の売上は前年の旧正月期間と比べてマイナス90%という惨憺たる状況でした。

 創業者の孫来春は31日の深夜、「窮地からの手紙」と題した公開書簡を発表しました。「毎日100万元(約1,550万円*)、1カ月で3000万元(約4億6,500万円*)の支出」があり、このままでは2カ月ももたずに破綻すると訴えました。

 絶体絶命の危機に陥った孫は、今まで試したことのない新たなチャレンジに希望を託しました。その手段の1つがタオバオライブです。タオバオライブとは動画配信とネット通販を融合させた新たな販売手法(ライブコマース)を実行できる、近年急成長を続けている販売チャネルです。2月1日に初めての配信を実施しましたが、視聴者はわずかに2人だけ。それにもめげず配信を続けたところ、4日後には1回の放送で500人もの視聴者を集めることができました。2月14日のバレンタインデーには孫自らが出演したところ、なんと6万人を超える視聴者を集め、主力製品のツバキ油の販売数は40万個に迫り、40万元(約600万円)近い売上を記録しました。

*タオバオ・アプリの画面。左は配信者の一覧。中は林清軒旗艦店のアカウント。右は孫来春による配信。

 成功したのはこの1回だけではありません。林清軒の業績は2月15日時点で前年同期比45%増を記録しています。しかも多くの店舗の中でも、新型肺炎が最も深刻な武漢市の店が全国2位の売上を記録しました。半月前とは天と地の差です。これもすべて孫の努力とタオバオライブの支援によるものです。

 「私のような、配信のプロではない中高年でもできる。配信を続けてみようという勇気をもらいました。」
 孫はアリババグループ従業員にあてた手紙の中でこう振り返り、アリババグループの支援が暗闇の中に光をもたらしてくれたと感謝しています。

シャオミにアディダス……大手企業がライブコマースで新製品を発表

 ライブコマースの力で新型肺炎危機を乗りきる。これは中小企業だけの試みではありません。大手企業もライブコマースの活用を進めています。

 スマートフォンメーカーのシャオミ(小米)は2月13日に新たなフラッグシップ機であるMi10の発表会を開催しました。いつもなら大勢の報道陣とファンを集めての発表会が開催されますが、今回は無観客の配信限定です。深圳衛星テレビ、シャオミ・ストリーミング、ヨウク(優酷)ストリーミング、タオバオライブなど、複数の配信プラットフォームを通じて発表会が放送されました。

 発表会の翌日はシャオミの天猫スーパーブランドデーです。天猫(Tmall)はアリババグループのB to Cマーケットプレイスですが、参加しているブランドは自ら定めた日程で年に1回だけスーパーブランドデーというセールを開催できます。シャオミにとって3回目となるスーパーブランドデーですが、フラッグシップ機の発売日と合わせたのは今年が初めてです。この試みは大成功を収め、この日の売上は3億元(約46.5億円*)を記録しました。発表されたばかりのMi10は天猫のスマホカテゴリで販売台数、売上のランキングでトップを記録しました。また、シャオミが販売する各種IoT(モノのインターネット)製品も61もの項目において1位を記録する好成績を残しました。

 世界的なスポーツ用品ブランドのアディダスも、天猫スーパーブランドデーを大々的に活用しています。2月21日が本番に向けて、4日前の17日から芸能人やファッション業界の著名人を招いたオンライン発表会を連日開催し、ファンの期待を高めました。

*アディダス・オリジナルスによる天猫スーパーブランドデーの告知

 今年の目玉は数あるアディダス製品の中でも歴史ある「スーパースター」シリーズです。今年で50周年を迎える歴史あるスポーツシューズです。20日にはクラシックモデルを扱うアディダス・オリジナルスのオンライン・フラッグシップストアをオープンし、50周年記念アニバーサリーモデルを発表しました。

 アニバーサリーモデルのほか、天猫限定のパッケージが用意されました。ブランドアンバサダーを務める、人気アイドルの易烊千璽(Jackson Yee)が人気ストリートダンスグループの易燃裝置KFCとともに登場して盛り上げました。

さまざまな業界の企業がライブコマースに進出

 実店舗の再開がなかなか進まないなか、多くの企業がオンラインで事業を再開しています。アリババグループが2月17日から毎日発表しているレポート「タオバオ経済暖報」によると、2月以降、毎日3万ものタオバオショップが新規オープンしています。そのうち20%超がもともと実店舗を持つショップがオンラインに移行したものです。オンラインショップを開設してすぐ、ライブコマースの力で成功するケースが増えています。いくつかご紹介しましょう。

・シューズメーカー 紅蜻蜓

2月7日に販売チャネルを一時的に実店舗をネットショップに移行し、ライブコマースを開始しました。コミュニティマーケティングや代理販売などの販売手法にも積極的に取り組み、あっという間に売上100万元(約1500万円)を突破しました。

・外食チェーン 眉州東坡

外食企業として初めてタオバオライブを実施しました。2月8日の元宵節(旧暦1月15日の祝日)には有名シェフが湯園(元宵節に食べるお団子)の作り方を伝授する配信を実施したほか、2月16日には看板料理の東坡肉(トンポーロウ)の作り方を伝授する配信を行いました。新型肺炎に負けないようショップを支援するキャンペーン「天猫暖春戦疫」にも参加。対象期間となる17日午前0時から19時の売上は前年同期比1400%増を記録しています。

・家具・建材メーカー 居然之家(イージーホーム)

営業再開が遅れていた居然之家ですが、同社に商品を提供する1,000社と共同で、ライブコマースで営業を再開しました。2月15日、16日の両日、225店舗が「天猫暖春戦疫」に参加。のべ1319回の配信を実施し、視聴者数は累計4万人を突破。4745件の受注を獲得しました。

 新型肺炎はさまざまな業界に危機をもたらしていますが、同時に企業の対応能力を問う試練ともなりました。新たなビジネスモデル、新たなテクノロジーを活用して危機を乗り切ることができるかが問われています。

*1人民元=15.5円で換算

付録:孫来春によるアリババグループ従業員への手紙

親愛なるアリババグループの皆さんへ

 アリババの皆さんに手紙を書くことがあろうなんて思いもよりませんでした。しかも「親愛なる」という書き出しから始めるなんて。

 すべては突然の新型肺炎から始まりました。旧正月からの7日間(1月24日から31日)、林清軒の実店舗の売り上げはマイナス90%と激減しました。まさに絶望的な状況でしたが、わずかな間に復活というどんでん返しを経験することになります。この数年協力してきたアリババグループなどITプラットフォームの力を借りることで、2月1日から一気に情勢は逆転しました。この間の経験からはさまざまな感情を抱いています。

 思い返せば、実は私は2016年までアリババをあまり信頼していませんでした。巨大な流量(顧客の導線)を持つ企業として、ただただ羨むばかりの存在でした。

 2016年、ジャック・マーが「ニューリテール」を提唱したことが転換点となりました。未来のリテールは現在のECや実店舗、そのどちらでもない。デジタル化によって強化されたニューリテールだとはっきり言い切っていました。他の人がどう理解したかはわかりませんが、私はすぐに学ぼう、実践しようと思いました。

 あれから3年が経ちました。林清軒はアリババグループのデジタル化戦略に全面協力しています。多くの同業者にはバカにされました。実店舗を持つ企業がアリババと提携するなんて、「肉包子打狗」(肉まんを投げて犬を追い払う、タダでえさを与えるようなもの)ではないか。協力は続かないだろうと言われたのです。

 この間の協力ではっきりと覚えていることがあります。デジタル化戦略に関する会議でアリババ社員が1時間以上もかけて講義をしてくれたのですが、他にもちょっとした空き時間に言われたこともありました。一番大事なのは理念のアップグレード、組織のアップグレード、システムのアップグレード、運営のアップグレードという4点だというのです。

 2年前の時点では実店舗にあるニーズをオンラインに奪おうとしているだけじゃないかと、多くの業界関係者がこの教えを疑っていました。ですが、逍遙子(アリババグループのダニエル・チャンCEOの花名。アリババグループ従業員は基本的に花名と呼ばれる、武侠小説からとった別名を持つ)など、アリババ社員の発表を何度も聞くうちに、私もデジタル化の価値を確信するようになりました。今や、天猫旗艦店2.0(2019年に発表された天猫のプログラムで、天猫上のオンラインショップと実店舗の在庫や販促キャンペーンの内容を統合するもの)は実質的には私たちの公式サイトとなっています。

 振り返れば恐ろしくもあります。もし新型肺炎流行前にアリババグループなどのプラットフォームとデジタル化の取り組みを行っていなければ、実店舗主導の林清軒は倒産するほかなかったでしょう。逆に業績を伸ばすなんて考えられもしません。

 過去2年余り、林清軒はどたばたしながらも、アリババのプロジェクトに参加してきました。

・企業向けコミュニケーションツール「DingTalk(釘釘)」との提携し、スマートショッピングガイドを導入。モバイルタオバオアプリとDingTalkの連携によって、販売員と実店舗の顧客をデジタルで管理し、天猫ショップへと誘導しました。
・ブランドアカウントの導入による「品効合一」(ブランディングとマーケティングの統合)
・サンプル配布プロジェクト「天猫U先」
・業務システムのアリババクラウドへの移行
・アリババクラウド・業務ミドルオフィスの導入によるプロダクト・デジタル化イノベーションセンターの活用
・アリペイ(Alipay)信用取引のテスト
・菜鳥(ツァイニャオ)サンプル配布のテスト
・タオバオ大学の受講

 創業者である私は自社の実務を熟知しているとは言いがたいのですが、逆にアリババのプロジェクトについては多くをよく理解しています。

 新型肺炎によってオフラインのビジネスはすべて「凍結」され、2,000人の販売員は自宅待機を余儀なくされました。我が社は倒産直前という窮地に立たされました。1月31日深夜、私は助けを求める「窮地からの手紙」を公開しました。すると、DingTalkの陳航CEO (花名は無招)がすぐに連絡をくれました。担当者をつけ、林清軒支援のさまざまなプロジェクトを推進してくれました。DingTalkを使ったビデオ会議が導入され、在宅勤務をできるようにしてくれました。販売員全員がタオバオライブをできるように手配してくれました。ライブコマース販売員となった第一陣の470人が参加したグループチャットでは、オフラインでの接客しか知らない販売員たちに、アリババグループ社員がまるで子どもを教えるように一から指南してくれました。実店舗の生き残りは時間との勝負だということを理解してくれていたからでしょう。

 開始から2日、ある販売員のライブコマースをのぞいてみると、視聴者はたったの2人だけでした。それでもアリババ社員に習ったとおり、まじめに放送を続けています。その姿に目頭が熱くなりました。果たして、4日後に同じ社員のライブコマースを見てみると、500人以上の視聴者がいたのです。

 企業存続の危機に私も腹を決めました。2月14日、100人以上の販売員と一緒に私もライブコマースに出演しました。人生初の配信は6万人以上の視聴者を集め、40万個近いツバキ油の販売という成果に繋がりました。プロの配信者ではない、中高年であってもライブコマースを続けられる。そんな勇気をもらいました。

 林清軒の業績は2月15日現在、オンラインの力で回復し、前年同期比45%増を記録しています。一部では倍増した店舗もあります。この逆転劇を林清軒の奇跡だと言ってくださる方もいますが、本当の奇跡はアリババなどの大手プラットフォームが社会的責任を果たしたことでしょう。アリババ各部門のスタッフが黙々と働き、手助けしてくれました。「あらゆるビジネスの可能性を広げる力になる(To make it easy to do business anywhere)」というアリババグループのミッションを実践してみせてくれたのです。このミッションについて私は2016年までは信じていませんでした。2018年になってもまだ半信半疑でした。ですが、今では本当のことだと信じています。

 私のDingTalkのフレンドリストには、溪望という花名のアリババ社員がいます。溪望(XiWang)という発音は、希望(XiWang)と一緒です。彼女はその名前通り、多くの希望をもたらしてくれました。実際に顔を合わせたことはありません。彼女が「天猫ブレイン・トラスト」を結成し、黙々と支援してくれたことを知るのみです。この暗い冬に多くの希望の光をもたらしてくれました。

 多くのアリババ社員が手助けしてくれました。私が名前を覚えていない方もいるでしょう。やりとりすらしたことがない方もいるでしょう。そうした皆さんすべてに、ここで改めて感謝の気持ちをお伝えしたいのです。今回の新型肺炎危機で私は改めてアリババを知りました。

ありがとう、アリババ。

林清軒創業者 孫来香

2020年2月15日深夜 隔離生活中の上海より

 

(Alibaba News編集部:松沢しゃん/解説・翻訳協力:高口康太)

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