キャビアが売れない?!コロナ禍でも高級農産物の売上を伸ばし続けたアリババ・メソッド
解説:
新型コロナウイルスの流行により、世界中で多くの人々のライフスタイルが大きく変わっている。変化がもたらす影響は大きい。特に賞味期限がある高級農産物には大打撃だ。日本でも高級食材の売れ残り、生乳の廃棄などが報じられている。中国の事業者への打撃も大きい。売上の9割を輸出に依存しているチョウザメ養殖業はコロナ禍が直撃した業界の代表格だが、アリババの消費者インサイトを活用し、国内の隠れた需要を開拓。オフラインからオンラインへの転換でピンチをチャンスに変える取り組みを続けている。
中国・浙江省の千島湖(せんとうこ)は1959年に水力発電所建設に伴って作られた、人工のダム湖です。大小1000以上の島があることからこの名がつけられました。島々の緑豊かな自然、美しい水質から「天下第一秀水」(世界一の美水)とたたえられた観光地です。
一方、この千鳥湖が世界屈指のチョウザメ養殖場であることはほとんど知られていません。世界三大珍味の一つであるキャビアですが、世界生産量の3分の1はこの湖から生み出されているのです。
採集されたキャビアはほぼ全量が中国国外に輸出されていましたが、2020年は新型コロナウイルス流行の影響を受け、輸出が激減しました。中国国内の既存販売チャネルも大きく縮小するなか、危機に陥った養殖業者を救ったのはEC(電子商取引)でした。ライブコマース(動画生配信とネットショッピングを融合させた、新たな販売手法)サービス「タオバオライブ」などのツールを活用することで、アリババグループのB2C ショッピングモール「Tモール」での販売量は倍増しました。
潜在的消費者を見つけるアリババのインサイト
「カルーガクイーン」ブランドで知られるのが、杭州千島湖チョウザメ科技株式有限公司という企業です。フランスや米国のミシュラン三つ星レストランにも納品し、世界のキャビア市場の35%を生産する質・量ともに世界的なチョウザメ養殖業者です。
販売額の90%を輸出に依存している同社は、新型コロナウイルスの流行によって、大きなダメージを受けました。ロックダウンやレストランの営業中止、外出自粛などの影響により、世界のキャビア需要が大きく落ち込んだのです。中国国内でもレストランの売り上げは低迷しており、既存の国内需要も頼みになりません。
そこで活路となったのがECの活用でした。中国ライブコマース業界を代表する配信者(ライバー)である李佳琦(リー・ジャーチー)をはじめとする有名配信者が、アリババのプラットフォームを通じて販売しました。ある配信ではわずか2分半で88万元(約1500万円)もの売上を記録しています。
「ネット販売の売上高は前年比100%超の増加と大きく伸びました。売上以上に重要なのは、消費者がキャビアを味わう機会が増えたことです」
カルーガクイーンの共同創業者である夏永濤(シャー・ヨンタオ)氏はこう振り返りました。カルーガクイーンは2013年にTモールに旗艦店をオープンしました。今でも中国国内向けネット販売の売上シェアの60~70%をTモールの自社直営ストアが占めています。その後、グローバルB2B「オンライン展示会」のアリババドットコム(Alibaba.com)にもショップを開き、オンラインでの海外販売にも取り組んでいます。
「コロナはユーザーの消費習慣を変える大きなきっかけになった」と夏氏は言います。消費水準の向上に伴い、キャビアを食べる中国の消費者も増えつつありましたが、コロナはこのトレンドを加速させる契機となったわけです。
変化の勢いを加速させたのは、消費者・業界に対するアリババの的確なインサイトがあったためだと、夏氏は考えています。キャビアのような美食に親しむのは経済力のある中高年と思われがちですが、ネットショッピングでの購入者は大半が30代以下の若い世代です。また、購入者のうち10%は大学生など95年以降に生まれた若者たちでした。
キャビアが支える農民の雇用
チョウザメは約3億年前に誕生した古代魚です。乱獲により、野生では絶滅危惧種となりました。カルーガクイーンは2002年に完全養殖技術を確立し、今の地位を築きました。彼らの発展は近隣の農民にも多くの雇用を生み出しています。
「杭州千島湖チョウザメ科技株式有限公司生産部養殖員」の肩書きを持つ徐建成(シュー・ジエンチェン)もその一人。もともとは船大工をしていましたが、2006年に夫婦そろって入社し、養殖員として働いています。「会社は毎年成長し、従業員の待遇も改善されています。なので、みんな顔なじみを社員にならないかと誘ってるんですよ」と徐は話しています。
直接雇用以外の形でも、キャビアは住民たちに利益をもたらしています。カルーガクイーンは近隣の漁民と提携し、養殖を委託しているのです。稚魚や飼料、そして飼育ノウハウまで提供することで、漁民たちも高品質のチョウザメを養殖でき、収入を得られるのです。
そうした漁民の一人が黎耀福(リー・ヤオフー)さんです。以前はソウギョなど、一般の淡水魚を養殖していましたが、なかなか利益を上げられませんでした。2007年から提携をはじめたところ、収入は一気に上がりました。最初は養殖場の3分の1だけでチョウザメを育てていましたが、今ではチョウザメ一本にしぼったのだとか。
黎さんは「コロナ禍以降、中国国内でもキャビアの認知度が高まって、国内の売上が伸びています」と、希望の光が現れたことに期待をかけています。
※日本円は、1元=17円(2021年6月時点)のレートで換算しています。
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解説・翻訳協力:高口康太、編集:AlibabaNews 編集部
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