「善良」――アリババ企業文化の原点

解説:
アリババグループのビジネスは中小企業(SMEs)をサポートし、個人事業主でも、満足に融資が受けられない人でも、誰でもビジネスができるようにするという社会課題にフォーカスしている。誰でも簡単にネットショップを開けるタオバオ、誰でも金融サービスを享受できる芝麻信用(ジーマークレジット)などが代表格だ。こうしたアリババのビジネスの根底には、人間は「善良」だとする信念がある。

*本記事はアリババグループの業務と企業文化に関する書籍『阿里巴巴與四十大道』(アリババと四十の道、2018年4月出版)の一節を抜粋、編集したものです。

20年前には浙江省杭州市の無名のベンチャー企業だったアリババグループは、今では世界に二つとないデジタルエコシステムへと成長しました。多くの人々はアリババグループが擁する数々の先端的ビジネスはどのように生まれたのかを探っています。一つひとつのビジネス、一つひとつのプロダクトやサービスには固有のストーリーがあります。しかし、元をたどると、すべては「あらゆるビジネスの可能性を広げる力になる」(To make it easy to do business anywhere)という会社のミッションから始まっています。原点はアリババグループの「善良」の精神にあるのです。

アリババグループの従業員は「小二」と自称しています。「顧客第一、従業員第二、株主第三」という社訓に由来するもので、顧客価値を第一の任務としているからです。この「小二」という自称も、その本質は「善良」にあります。「小二」の一員にして、『アリババと四十の道』の著者である趙先超(チャオ・シェンチャン)の考えでは、アリババの事業は突き詰めると、「人之初,性本善」(人のはじめ、性もとより善なり。人間はもともと善なる存在である。儒教の徳目(善い行いの教え)を記した書『三字経』の一節)と考える、すなわち性善説を信じる企業文化に基づいているといいます。

強い企業になるのは困難だが、良い企業になるのはもっと難しい

アリババグループの創業者にして、アリババの企業文化の持続させるために共同創業者や有力幹部から構成されるアリババパートナーシップの一員であるジャック・マー(馬雲)はかつて「アリババは“良い企業”にならねばならない」と言いました。強い企業になるのは困難ですが、良い企業になるのはもっと難しい。ビジネスの力があれば強い企業になれますが、良い企業になるためには責任感と善良であることが必要です。商業的な成功だけではなく、社会問題の解決を目指すという初心を忘れず実践する必要があるのです。

「小二」たちにとって、ジャック・マーは「人性本善」(人の性、もとより善なり。本来、人間の本性は善である。『孟子』の一節)の体現者です。ジャックは10代のうちから杭州の観光地である西湖で外国人観光客と交流し、自らガイドを引き受けて英語力を磨いてきました。出会うのは見知らぬ人ばかりでしたが、中には大事な友になった人もいました。

1980年8月、ジャックはオーストラリアから来たケン・モーリーと出会いました。二人はペンフレンドとして交流を続け、そしてケンが2004年に亡くなった後でも友情は続いています。ジャックはオーストラリアのニューカッスル大学にマー&モーリー奨学金を設立しました。大学に進学できなかったことを残念に思っていたケンの気持ちに応えたものです。

左からジャック・マー、Ken Morley(写真提供:オーストラリアのニューカッスル大学)

ジャックとケンの物語は善良の道を示すものです。素不相識(見知らぬ関係)から萍水相逢(偶然の出会い)へ。そして、相濡以沫(苦しい時の助けあい)、感恩社會(社会への感謝)へと続いていくのです。

性善説を信じてーー信頼に基づくビジネスの追求

人の本性は善なのか、それとも悪なのか。本当はどちらであるかは、さほど重要ではありません。大事なのは皆さんがどちらを信じるかです。悪だと信じる人が考えるビジネスは不正を防ぐことに重きが置かれているでしょう。一方、善だと信じる人のビジネスは信頼に重きが置かれています。

アリババの企業文化を守るアリババパートナーシップの一員であり、決済サービス「アリペイ」の最初のソースコードを書いた人物である、アント フィナンシャル サービスグループ、 アリペイ事業群のシンジュン・ニー(倪行軍)プレジデントは、「人の本性は善なりと信じること、そうして初めて赤の他人同士で信頼を構築することができます。この発想を得てから、信頼を軸としてC to Cマーケットプレイスのタオバオ、モバイル決済サービスのアリペイ、信用スコアリングの芝麻信用(ジーマークレジット)というサービスを構築できたのです」と話している。

アリペイはテクノロジーによって生み出されたサービスですが、その開発の根底には、すべての人が善良だと信じる考えにありました。

「義理」を伝える、アリババの師弟関係

シンジュン・ニー(倪行軍)プレジデントによると、アリババがまだ小さな企業だった頃には入社時に師弟関係を結ぶ慣習があったと言います。社員10万人を超える大会社となった現在では大々的な行事は行われていませんが、今でもすべての新入社員には兄弟子がつきます。兄弟子たちが「信頼」「信頼があれば何事もシンプルにできる」「義理」といったアリババらしさを伝えていきます。こうした企業文化を学んだ社員たちはやがて兄弟子として教える側に回っていくのです。

まさに「一年香、三年醇、五年陳、十年馨」(寝かせた酒が年々香りを強くしていく様を示す言葉。アリババでは酒と同様、社員も年数とともに深みを増していくとして、入社1年目、3年目、5年目、10年目を祝うしきたりがある)です。

「義理」というと任侠のようなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、アリババの意味は違います。武侠小説を代表する作者、金庸は「大いなる義理を持つ者は国家、人民を利する」と説いています。ビジネスに置き換えれば、互いに信じること、透明性を担保すること、シンプルであること、信じて協力することによって、商業的価値と社会的意義の双方で成果を求めることなのです。

社会問題の解決に取り組む、善良の文化

アリババはビジネスとは無関係であっても、多くの社会問題の解決に取り組んできました。アリペイの「団円」システム(誘拐事件の通報を受けると、ニュースアプリや配車アプリなど提携企業のアプリを通じて、近隣のネットユーザーに子どもを見かけなかったか問い合わせる連絡を行うシステム)は子どもたちを見つけ出すのに役立ちました。また、貧困からの脱却を目的としたプロジェクトを通じて、800もの貧困村が特産物をネットで販売する“タオバオ村”に生まれ変わりました。いずれも善良という文化がなければできなかったことです。

多数の幹部が参画し、貧困脱却に向けたチャリティー基金を設立

アリババ創業当初、まだ利益を生み出していませんでしたが、18人の共同創業者は営業利益の0.3%を公益事業に寄付すると決めていました。2017年末、すべてのアリババパートナーはアント フィナンシャルの杭州本部であるZ空間にあつまりました。36人のパートナー(2018年4月時点)が一つの目的で集まるのは2014年の米ナスダック上場以来初めてです。集まったパートナーたちは「アリババ救貧基金」の設立を発表しました。貧困脱却をアリババの戦略事業とし、100億元(約155億円)を投じて貧しい農村を豊かにする計画を発表しました。この100億元は、アリババの営業利益の0.3%が拠出され、足りない金額はパートナーと従業員の寄付でまかないました。

この救貧基金は創業者のジャック・マー(馬雲)を主席とし、ダニエル・チャン(張勇)CEO、ジョセフ・ツァイ(蔡崇信)エグゼクティブ・ヴァイスプレジデント、共同創業者の一人であるルーシー・ペン(彭蕾)、アント フィナンシャルのエリック・ジン(井賢棟)会長という、パートナーの中でも重要人物である4人が副主席を務めています。救貧基金の取り組みがどれほどアリババの経営戦略として重視されているかを示しています。

単なる稼ぐための手段ではなく、仕事を通じて人々が尊厳とやりがいを見出す、価値あるサービスを提供する

アリババグループは2003年にC to Cマーケットプレイスのタオバオを創設しましたが、収益化の先行きも見えず、また重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行するという厳しい状況でした。くじけそうな時、「魔豆ママ」のエピソードがアリババの従業員を支えました。

24才という若さで末期の乳がんと宣告された周麗紅は、がんの転移によって下半身不随となってしまいます。彼女はタオバオで「魔豆ママ」というネットショップを開き、娘を養いました。タオバオで魔豆ママの店主として働くことは、たんに稼ぐためだけのものではなく、身体が不自由になった彼女がこの仕事を通じて尊厳とやりがいを見出すものでした。

この物語を知って、アリババの従業員は決意を新たにしました。収益化の道が見つからなくても絶対にやりぬくのだ、と。それこそが義理であり、社会的意義なのです。

タオバオは雇用の問題を解決できます。ガンに苦しむ患者であっても自力で尊厳のある生活を過ごせるようになります。ベッドから起き上がれないような人であっても商売ができる、家族を養える。これこそがタオバオの持つ大きな価値です。まさに「あらゆるビジネスの可能性を広げる力になる」であり、アリババというエコシステムを共有しあう一人ひとりと社会の善良さです。

(Alibaba News編集部:松沢しゃん/解説・翻訳協力:高口康太)

 

 

 

 

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