【湖畔大学】失敗こそが起業家の”栄養”だ、ジャック・マーの教え

解説:
アリババグループの創業者であるジャック・マーは経営の一線から身を引いた後、起業前に仕事としていた教師に戻ると公言しています。多くの人々にジャックの経験を伝えていますが、若き起業家に経営哲学を伝授する場になっているのが2015年開講の湖畔大学です。

 この20年間にわたり続いている世界的な創業ブームによって、多くの業界で新たな企業が登場し、社会を進歩させてきました。しかし、荒野を切り開く起業家の行く手は平坦なものではありません。失敗を教訓として活かせるかが会社を存続させられるかのカギです。

 アリババグループの創業者であるジャック・マー(馬雲)は、2020年初頭に湖畔大学に応募した起業家向けの講演で、失敗から学ぶことの重要性を説き、人材と生産管理の中にこそ経営の秘訣があると話しています。

2020年1月、湖畔大学第6期生選抜試験の会場で講演するジャック・マー

 湖畔大学とは浙江省杭州市の西湖のほとりにある起業家向けの交流機関です。非営利の公益団体で、新商業文明時代にふさわしいマインドを持った起業家を育成することを目的としています。主に創業3年以上の起業家が対象となります。今年1月上旬、1,600人近い応募者から選ばれた40人あまりの起業家が第6期メンバーとしてこの講座を受講しました。

 集まったメンバーを前にジャック・マーが講義を始めました。「起業家こそが会社にとって最大の推進力です。ゆえに企業が発展できるかできないかは、ビジネスモデルや社会環境ではなく、起業家自身の問題として考えなければならない」と強調しました。

 「企業の失敗には多くの原因がありますが、修行が足りない、エゴが強すぎるといった、起業家の思慮の浅さこそが最大の要因です。修行にはさまざまな方法があります。ライバルやクライアント、従業員、社会があなたを鍛えてくれます。そうした試練のたびに何を捨てるべきか、何をあきらめてはいけないのか、どの部分は方向転換してよいのか、これらをはっきりと認識するべきです。これこそ起業家がなすべきことなのです。」

失敗こそが最高の”栄養”

 「失敗こそ起業家にとって最高の栄養です」と、ジャックは言います。大樹が大きく育つのも土壌の栄養素をしっかりと吸収するから。起業家も同じです。成功にはさまざまな要因がありますが、一番重要なのは他人がどのように失敗したかを知ることです。ありとあらゆる失敗を知り、教訓を得ることが重要なのです。湖畔大学が “失敗を振り返り、分析する” をモットーとし、その教訓から己を変えることを旨としているのはそのためです。

 教訓を得ることができたならば、次は何をするべきでしょうか?
 起業家はプロダクトに対する考えを変えるべきだとジャックは言います。どんな企業であっても最も重要なプロダクトは「人」なのです。商品やサービスはその次です。従業員が成長することがなければ、企業は成功しません。起業家の多くは製品や技術ばかりにとらわれていますが、本当に重要なのは経営だと、ジャックは考えています。

 「経営とはなにか? それはインセンティブ制度と生産リソースの管理です。たとえば、ある綺麗な方がいるとしましょう。この方が美しいのは鼻がキレイだからでしょうか?それとも目、もしくは口がすばらしいのでしょうか?私の答えはすべて重要というものです。すべてを兼ねそろえることが必要なのです。CEOの責任はインセンティブ制度、生産関係、人材経営のすべてに及びます。加えて、資金やリソースの管理を万全にすることが求められます。これらすべてを合わせ持つことが一番難しいのです。」

レガシー企業なんてない、あるのは遅れた企業だけだ

ジャック・マーが起業家たちに贈る言葉--「読万巻書不如行万里路,行万里路不如見万種人

 近年では企業をニューエコノミーに所属する企業とレガシー企業とに分類する風潮が見られます。しかし、ジャック・マーはこの分類に反対しています。レガシー企業などというものはなく、あるのは遅れた企業に過ぎない、と。同様にレガシーな起業家も存在せず、過去を生きている起業家が残っているだけだと言います。

 新たに経営陣を招聘する際、過去の経歴だけで選んではいけません。新たなことを学ぶ意欲があるのか、学習能力があるのかが重要です。それがあって初めて未来と向き合えるのです。「未来こそ最大のライバル」、これは湖畔大学で学ぶ内容ですが、企業にとっては最も基本的なルールであり、未来を判断するための手法です。

 アリババグループは1999年に創業しました。ジャックは18人の創業者の一人ですが、それまでリテール、プラットフォーム、決済、クラウドなどの事業を手がけたことはありませんでした。自ら学び、そして学習意欲を持つ人を集めたことによって会社は成長したのです。

 学習といっても、学(勉強)と習(実践)は異なるというのがジャックの考えです。「毎日学んでも、永久に習わないもの、それが学者です。毎日習っても学ばないもの、それが専門家です。学者と専門家は異なる存在で、専門家は実践から生まれます。」学びと習い、その2つを結合させなければなりません。聞くこと、考えること、実践すること、この3つの方法によって結合は成し遂げられるとジャックは結論づけています。まさに中国のことわざにある「読万巻書不如行万里路,行万里路不如見万種人」(1万冊の本を読んでも、1万里を旅することにはかなわない。1万里を旅しても1万人に会うことにはかなわない)という言葉通りです。

 

湖畔大学はコネ作りの場所じゃない

 まもなく成立5年を迎える湖畔大学では、100人を超える世界的な起業家、学者、芸術家が教壇に立ち、200人以上の優秀な中国の起業家がメンバーとなりました。

 過去数年の摸索を経て、ジャックは面接で候補者たちに次のことを強調するようになりました。湖畔大学は感情の交流、業界を超えた交流、格差を超えた交流の場にして欲しい、と。「湖畔大学には守るべきものがあります。……ビジネススクールの多くはたんなるコネクション作りの場所に堕落していますが、不必要なものです。お金やプロジェクトを得るための場ではないのです。企業経営における責任、感情、願望、使命、価値観、そうしたものを共有する場でありたいのです」

 湖畔大学は同じく創業経験を持ち、同じく理想を持ち、同じく悩みを抱えた人々と1つの場に集まり、語らうことができる貴重な場だとジャックは言います。もしビジネスのための場だとみなせば、湖畔大学で本物の同窓生、本物の友人を得ることはできません。「同窓生とは一生にわたり、心から交流し、起業の経験を分かち合える人のことです。もし同窓生が困難に直面した時、君の後ろには私がいると声をかけてあげられれば、どれだけすばらしいことでしょうか。そうです。困っている人の後ろで支えてあげるのはあなたの会社ではなく、あなたという一人の人間なのです」

 

(解説・翻訳協力:高口康太/Alibaba News編集部:松沢しゃん)

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