【湖畔大学】リーダーに必要なものとはなにか?アリババトップが創業者と管理者の思考をテーマに講義

解説:

ジャック・マーからアリババのトップの座を引き継いだのが、アリババグループ会長兼CEOのダニエル・チャン(張勇)だ。1972年生まれの48才。過去の地盤を守るだけではなく、B to Cマーケットプレイスの天猫(Tモール)の立ち上げなど新事業の立ち上げにも成功している。そのダニエルが若き起業家たちを前に、リーダーの心得を語っている。

アリババグループ会長兼CEOのダニエル・チャン(張勇)が、湖畔大学第4期学生に向けて、創業者と管理者の思考をテーマとする講義を行いました。その中から起業家の皆さんが特に関心が強い「道の選び方」「企業経営と管理の核心」「いかにチャンスを待つか」という3つのトピックを紹介します。

アリババグループ会長兼CEOのダニエル・チャン(張勇)

湖畔大学は、アリババグループの創業者にしてパートナーの一人であるジャック・マー(馬雲)、レノボグループの創業者である柳伝志、復星集団(フォースン・グループ)董事長の郭広昌など著名な企業家、研究者9人が共同で創設した起業家教育機関です。そのキャンパスは杭州市西湖の浴鵠湾付近に位置しています。公益、非営利の方針を貫き、「新商業文明時代」(顧客起点でブランド価値が決まる時代)の起業家精神を備えた、次世代の起業家を育成しています

ペインポイントを見極めよ

創業の道はどのように選べばいいのでしょうか? 第一に顧客とは誰か? その顧客にどんな価値を提供できるか? ここから考えるべきであり、新事業を始める前に明確に定義しておく必要があります。この定義が具体的であればあるほど、新事業は順調に進むでしょう。逆に想定する顧客が曖昧なままでは議論すらできません。

(アリババのような)プラットフォーム・ビジネスを長い間続けていると、自分を見失いがちです。初心を忘れてしまうのです。だから定義を明確にしておく必要があるのです。ちなみに、創業初期からプラットフォーマーを目指す起業家はだいたい成功しません。というのもビジネスモデルの設計ばかりに夢中で、本当に考えるべき3つの要素を見失ってしまうからです。その要素とはなんでしょうか?

第一に、顧客価値を徹底的に追求すること。そして、その顧客価値がどれほどの普遍性を持つかを理解することです。事業を始めてしまったら、道を決めてしまったら、走り出してしまったら、もう道を変えることは困難です。自動車と決めたら自動車、内装と決めたら内装、教育と決めたら教育、エコ関連と決めたらエコ関連、少なくても一定期間は集中しなければなりません。将来、他分野に進出する可能性があるとしても、まずは新事業が何かを定め、市場の大きさを見極めることが必要です。新事業でどれだけの人の課題を解決できるのか、どれだけの潜在的市場があるのかを理解しなければなりません。

第二に、顧客とは誰かを議論する際に、提供できるサービスとその価値を明確にし、ターゲットが十分な数なのかを見極める必要があります。「ペインポイントが大きければ大きいほど、チャンスは大きい。」 何度も繰り返されたジャック・マーの名言ですが、ビジネスデザインから事業の道を探るためには、まずペインポイントを掘り下げ、研究しなければなりません。簡単に言うと、そのペインポイントは本物の課題かを問うわけです。表面的な課題に過ぎなければ、簡単に解決できてしまいます。それでは核心的価値を提供するビジネスは成り立ちません。

そして、その課題が普遍的なものか、すなわち同じ課題を持つ人がどれほどいるのかを見極め、その課題を解決できるかをしっかりと検討するのです。ビジネスデザインにおいて最も重要なポイントです。

第三に、異なるやり方で顧客の課題を解決できないかを考える必要があります。新たな技術なのか、新たなビジネスモデルなのか、それとも両者の組み合わせなのか、子細に検討するべきです。それに他の企業家が先に取り組んでいないか、もうすでに課題の一部を解決していないかも、しっかりと確認すべきです。これが市場の優位性を築いているかを確かめる作業になります。もしあなたのプランを書いたスライドを世界中にばらまかれたとしても、他の起業家はもう真似できないような状況になっている。これぞ優位性の構築です。

さて、事業の拡大にあたって、道を選ぶ時には2つのルートがあります。1つは垂直統合です。産業チェーンの上流、下流に拡大していくわけです。上流では生産材料を抑え、下流ではマーケットの出口までを抑えるという具合に。もう一つのルートは水平展開です。ある地域で地位を築いたら次の地域に、ある国の市場を制したら次の国にという具合です。企業の命運を握る重要な選択です。

囲碁では「落子無悔」(石を打ったら後悔しない)といいますが、企業の責任者にとってもそれは最大の責任です。決断は企業トップだけの責任であり、誰も代わることは出来ません。状況が日々変化するなかで、戦略を定めなければなりません。市場はダイナミックに変化します。己をよく知っておくだけではなく、マーケットに他のプレイヤー、ベテランから新人まですべてをしっかりと把握しておかなければなりません。ライバルがなにに取り組んでいるのか、どんな変化があるのか。そうした変化は私たちの判断に、道の選択に、ビジネスモデルの設計に影響を与えるのですから。

リーダーの決意と視野に基づく、冷静な思考、判断、決断が問題を解決します。そこにギャンブルはあるのでしょうか? もちろんあります。自分自身の経験からお話しましょう。大きな決断には理性的な判断もありますが、最後は運命にゆだねることが必要となるのです。リーダーだけがなせる業です。これもまた「落子無悔」と言えるでしょう。あなたの選択が企業の運命を決めるのです。

 

既存組織で新事業は起こせない、リーダーに発言力を与えよ

経営者の仕事は経営と管理ですが、この両者は別物です。まず経営とは、ブレイクスルーです。アリババグループの新型生鮮スーパー「盒馬生鮮」(フーマー)を例に考えてみましょう。(30分以内の無料配送や産地直送商品などの)イノベーティブなプロダクトとサービスを次々と送り出すことでサプライズを起こしました。こうした新たな価値を生むブレイクスルーが経営です。

一方の管理とは効率です。組織が効率的に運用されているか、人事配置が適切か、全国レベルの組織から地域レベルの組織まで一貫してコントロールできているかを確認します。

経営と管理はいわゆる「バケツ原理」(Cannikin Law。バケツの外壁に低い部分があれば、そこから水がこぼれてしまう。そこから、もっともレベルの低いものにあわせて能力が決まることを指す)に基本的に合致します。どれだけすばらしいアイデア、イノベーションがあっても管理に失敗すれば、会社を悪くしてしまいます。

ただし、管理とは防護的なものであることも理解すべきでしょう。管理が万全で、高い効率を保持している。人事にも失敗していない。そうした理想的な管理を実現したとしても、それだけでは企業は前進できません。企業は未来を作り出す必要がありますが、管理では生み出せないものなのです。勤務管理をどれだけ厳格にしても未来志向の企業は生み出せません。工業的管理は人間をロボットに変えてしまうからです。IT企業はそうなってはなりません。能動性を呼び覚ますための管理哲学が求められています。

アリババは数々の新事業を生み出してきました。モバイルオフィスサービスのDingTalk(釘釘)、新型生鮮スーパーのフーマー、中小店舗向け卸売EC(電子商取引)のLST(零售通)、スマートスピーカーの天猫精霊(Tモールジニー)……こうした新事業の立ち上げには必ず別組織を作ります。そうしなければ烏合の衆で終わるからです。既存組織内で新事業を興しても、成功したら誰の成果か、失敗したら誰の成果か、さっぱりわかりません。独立したチームを立ち上げ、既存組織とは極力関係を断たねばなりません。

あるいは、2つのチームが同じ課題に取り組んでいたとしましょう。双方ともに能力を持ち、士気も高い。こんな時に、食い合わないようにと仲介してはなりません。

一番やってはいけないことは各部門の協力で、新事業を立ち上げることです。財務、法務、投資、技術、物流、外部協力……さまざまな部門が口をはさんでくるため、新事業のリーダーにはなんの発言力も残されていないでしょう。ありとあらゆる人々があれこれ言ってきますが、それらの言葉の中には問題解決の方法は含まれていません。人の話を聞くのではなく、自らの責任で勝負を賭ける、人生を捧げることが必要です。そうした姿勢でチャレンジするからこそ、失敗しても納得できるのです。自分の選択は失敗に終わったが、責任は取る。恨み言は言わない。リーダーとはそういうものです。

湖畔大学。杭州市の名勝である西湖・浴鵠湾のほとりにある。

 

絶望の中にチャンスがあると知れ

ペインポイントの解消、顧客価値の追求についてお話してきました。最後にいかにチャンスを待つかについてお話しましょう。

我々が取り組むべき課題は、現在のものとは限りません。逆に未来の問題について、より正確に判断し、より早く準備が出来れば、大きな成功を収める確率も高まります。この世界には多くの優秀な人材がいます。未来を予測できる人も少なくありません。この世界がどう変化するのか? どんな問題が起きるのか? どんなチャンスが到来するのか? あなたがどのように予測するかが問われているのです。

時に、私たちは現在のチャンスを重視しすぎてしまいます。現在のチャンスを逃しそうだと焦っている時は特に、です。私は「始発・終電理論」を提唱しています。誰もが時流に乗らねばならないと考えています。かつてのモバイルインターネット、今のIoT(モノのインターネット)、あるいは自動運転がやってきた。ただ、そうしたトレンドはすでにチャンスではなくなっていることがあります。

ある分野で大きなチャンスを逃した時、企業は焦りに苛まれます。終電を乗り過ごしてしまったという焦りです。ただ、客観的に見るとトレンドを逃したことは致命傷ではありません。世界は永久に流転し、循環しています。今回のチャンスを逃しても次のチャンスはあるのです。そう、次のチャンスは“永遠”に存在しています。問題はそれまであなたが生き延びていられるかどうかなのです。

「トレンドを逃しても気にするな」というのは、逆張りの話ではありませんよ。日々真剣に考えるべきは「生き延びる」ことであり、企業を大きくすることではありません。そのことをお話しているのです。ビジネスモデル、イノベーション、社会的課題……なんでもかまいません。ほたるの明かりのような小さな火種であっても、「生き延びる」ことにつながるなにかを持ってきてくれることがあります。生き延びるという基盤があって初めて、次のチャンスを待つことができます。しかも、始発に乗ることを狙えるのです。これが「始発・終電」理論です。

4G通信によってショートムービーが長尺の動画を上回る、このチャンスをつかまなければならない。(中国では)よく言われる話ですが、4G通信の普及初期にショートムービーの可能性を確信していた人はどれだけいたでしょうか? ほとんどいないでしょう。逆に「ショートムービーがチャンスだ」という見方が共通認識に変わった今のタイミングは危険です。絶望の中にチャンスがある、衝動の中に罠がある。歴史上何度も繰り返されてきたセオリーだからです。

ではどのようにしてマーケットを読み解けばいいのでしょうか? どうやってトレンドを、未来のチャンスを判断すべきでしょうか? 私にできるのは自分の体験とやり方をお伝えすることだけです。私は人との会話が大好きです。好きと言っても自分から話すことはあまりありません。他人の話を聞いていることがほとんどです。その話から多くのインプットを得ます。ですから、私と会話すると、皆さんにとって基本的に損ですよ(笑)。

そうしたインプットから、自分自身に警告しているのです。なにに取り組むにせよ、マーケットの流れに沿うものでなければなりませんが、流れは自らの感覚でしか測れません。AIによるデータ分析や美しいスライドを見ても、わからないものなのです。チームメンバーや顧客の与えてくれた情報は、自分自身の感覚の代わりにはなりません。

蘇軾(そしょく)の詩「恵崇春江晩景」に、その「春江水暖鴨先知」(春の長江の水のぬくもりを最初に知るのはカモだ)との一節があります。ビジネスモデルの源泉はマーケットの変化を察知する感覚です。その感覚が鋭敏かどうかは組織にとって、リーダーにとってきわめて重要です。

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