2021年7-9月期決算発表電話会議におけるアリババグループ会長兼CEO ダニエル・チャンのスピーチ

解説:
2021年11月18日、アリババグループは2022会計年度第2四半期の決算を発表した。同日に開催された電話会議において、ダニエル・チャン(張勇)会長兼CEOは当期業績と将来の展望について説明した。

写真はアリババグループ会長兼CEO ダニエル・チャン

中国経済のトレンドとアリババの業績

2021年7~9月期(以下「当期」)において、アリババグループは「内需」「グローバリゼーション」「クラウドコンピューティングとビッグデータ」という三大戦略への投資を続け、健全かつ持続可能な発展という未来に向けての確かな基盤作りに取り組みました。

当社の事業についてご紹介する前に、まず中国経済のマクロ統計についてお伝えしましょう。中国のGDPと消費は2021年第3四半期に上昇したものの、伸び率は鈍化しています。小売業界全体の売上総額(小売売上高)は前年同期比5%増、実物商品のネット小売額(ネット通販売上高)は8%増にとどまりました。ちなみに昨年同期は、17%の増加でした。オフラインの消費額は、ようやく2019年水準に回復した状況です。

この不透明なマクロ経済環境と日増しに激化する市場競争によって、アリババグループの中国国内における消費者向け事業の規模の成長率も影響を受けました。実物商品のGMV(流通取引総額)の前年比伸び率は、一桁台に低下しています。アパレル、日用品の成長鈍化が主な要因です。これらの商品のトレンドは、中国の小売市場全体とほぼ一致しています。一方で、電子機器、家具・インテリアなどは当期において、安定した成長を続けています。

厳しい環境下ではありますが、私たちは新規ユーザー獲得の努力を怠っていません。特に淘特(タオター、低価格中心の生産地直販型ネットショッピングモール、旧称はタオバオ特価版)は、新興市場(内陸部や郊外を指す)で急成長を続けています。

2021年9月末時点で、全世界におけるアリババグループのAAC(年間アクティブコンシューマー、年に1度以上アリババグループのサービスを利用した消費者)は、12億4,000万人に達しました。前期から6,200万人の増加、前年同期比で20%増を記録しました。中国国内のAACは、前期末の9億1,200万人から9億5,300万人に増加しています。海外市場では、前期末の2億6,500万人から2億8,500万人に増加しました。全世界20億の消費者にサービスを届けるという長期的戦略目標を堅持するとともに、本会計年度内に中国国内のAACが10億人到達の目標達成に強い自信を持っております。

 

タオター(淘特とタオツァイツァイ(淘菜菜)、小売新事業の展開

続いて、我々の長期戦略投資に対する考えをお伝えします。

新興市場において、タオターは中国国内におけるアリババ・エコシステムに新たなユーザーを呼び込み、かつユーザーをよりアクティブにするという役割を発揮しています。当期、タオターのAACは、2億4,000万人を突破しました。アリババグループの主力ショッピングアプリであるモバイル・タオバオと重複しない、タオターの独自ユーザーは、DAU(日間アクティブユーザー)で見ると50%近くにまで達しています。コストパフォーマンスの高さとタオバオとは差別化されたユーザー体験が評価されたためです。

また、タオターはM2C(Manufacture to Consumer、製造地と消費者を直結させるモデル)に注力しており、メーカーが直接消費者に販売、出荷することを可能にする、ショップ運営と物流のワンストップソリューションを導入しています。このM2Cモデルの注文数は前年同期比で400%近い増加で急成長を示しています。

コミュニティ(社区)コマース事業において、アリババグループの淘菜菜(タオツァイツァイ)は、健全かつ持続可能な発展のデジタルコミュニティビジネスの新モデルの構築に努めています。すでに200近い都市でサービスを開始し、当期のGMVは前期比150%以上の増加です。

我々は「価値創造」を一貫して追及してきました。コミュニティ(社区)コマース事業でも変わりません。成長率とシェアばかりを追い求め、ホットなビジネスという理由で参入することはありません。

アリババグループが蓄積してきたサプライチェーン、物流ネットワーク、ユーザー管理、チャネル開拓の能力を充分に発揮し、デジタル化の駆動によるコミュニティビジネスの新インフラを構築すること、それにより高品質かつコストパフォーマンスの高い商品とサービスを、ユーザーに送り届けることを目的としています。ユーザー調査の結果、ほかの類似サービスよりタオツァイツァイを選んでくれたユーザーは、「品質」を主な理由としてあげていることがわかり、嬉しく思っています。

タオツァイツァイは、アリババグループにとっても重要です。その発展はECユーザーの購買頻度を上昇させます。また、ユーザーの過半数にとって、アリババ系プラットフォームで初となる生鮮食品の購入の場を提供しました。

コミュニティ・ビジネス・インフラの最終的な価値は、消費者により良い日常サービスを提供し、人々の暮らしを担保し、農家の増収を助け、雇用を増やすことにあります。我々は価値創造の理念を堅持し、コミュニティの消費者のためのサービスに取り組みます。

 

アリババ・ローカルサービスの状況

中国本土のローカルサービス(デリバリー、マップアプリ、旅行事業などの地域に密着したサービスの総称)は、デリバリーサービスの餓了麽(ウーラマ、Ele.me)、マップアプリの高徳地図(エーマップ、Amap)、旅行プラットフォームのフリギー(飛猪、Fliggy)から構成されるビジネスユニットを構築しています。

ウーラマは「家に持ってくる」、エーマップは「目的地に行く」というアクションの主要ポータルです。ウーラマのAAC成長率は前年同期比28%増、注文数では30%増を達成しました。特に食品飲料以外の(日用品や薬品などの)配送では、デリバリー事業全体を上回る成長を示しています。

エーマップは一般的な地図機能に加え、配車サービスやホテル予約などの目的地周辺での付加サービスの提供に取り組んでいます。当期、付加サービスを利用するユーザー数は前年同期比で200%以上の増加となりました。

フリギーはエーマップの付加価値サービスをはじめ、ホテルやチケット予約等のサプライヤーとなっていますが、新型コロナウイルス流行の影響で、ホテル、観光地、リゾートサービスの供給が不安定となりました。しかし、フリギーのもたらすサービスはエーマップを含む、さまざまなアプリでユーザー価値を高める効果を上げています。

 

ダブルイレブンのGMVは5,403億元に

さて、つい先日終了したばかりの第13回「天猫ダブルイレブン・ショッピングフェスティバル」についてお話しましょう。

11日のキャンペーンにかけて、アリババグループのショッピングプラットフォーム全体のGMVは、前年比8.5%増の5,403億元(約9兆6,200億円*)を記録しました。(昨年の)きわめて高い数字を前提に、さらに安定的な成長が達成できたことは中国の消費力と経済のレジリエンスを示しています。今後も中国の消費はさらに成長すると確信しています。

アリババグループは中国において、最も広範にして最も価値のある消費者グループ(AAC9億5,300万人)を擁しています。しかも、その数は今なお増加しているのです。さらなるユーザー数の拡大を目指すともに、さまざまなアプリによって、ターゲットごと、活用シーンごとに異なる対応を行っていきます。また、アリババグループの各種プラットフォームにまたがって消費者を捕捉することで、ユーザー・スティッキネス(粘着性)の強化、ユーザーの多元的ニーズの満足、モバイル決済と社会消費品小売総額に占めるアリババのシェア向上を実現します。

 

海外消費者市場、AACは2億8,500万人に

海外消費者市場ではユーザー規模と売上の健全な成長が続いています。AACは9月末時点で2億8,500万人に達し、当期売上は前年同期比33%増です。

東南アジアのネットショッピングモールLazada(ラザダ)の注文数は、前年同期比で82%の高成長を記録しました。特にタイ、ベトナム、マレーシアの伸び率は100%を上回っています。トルコ最大のEC(電子商取引)プラットフォームのTrendyol(トレンドヨル)の当期GMVは、前年同期比で80%を超える成長です。越境ECプラットフォームのAliExpress(アリエクスプレス)は、欧州連合(EU)のVAT(付加価値税)規則の変更と新型コロナウイルスの流行によるサプライチェーンの打撃とローカル消費の回復から伸び率が鈍化していますが、今後も欧州主要国での現地化経営を強化してまいります。

 

物流、欧州4カ国で無人宅配ボックスを展開

消費者向けの物流では宅配便配送拠点「ツァイニャオ・ステーション」がカバーする地域が200都市を超えました。また、新興地域(内陸部、農村部)でのサービス拡大にも取り組んでおり、1,000を超える県級地域に物流拠点を構築しました。当期、ツァイニャオ・ステーションの取り扱い宅配荷物件数は前年同期比で70%近い増加で、1日平均6,900万個に達しました。

ビジネス向けでは、タオターと共同で生産地に物流倉庫を建設し、ネット注文を受けた後に消費者に直送する体制の構築も進めています。生産地物流倉庫の取り扱い件数は前年同期比200%を超える増加を記録しました。

国際物流ネットワーク建設においては、エンド・トゥ・エンドの物流能力を強化しています。ロシア、スペイン、フランス、ポーランドのヨーロッパ4カ国では、無人宅配ボックスの設置を始め、ユーザー体験を改善しています。

 

クラウド事業、独自開発CPUを発表

アリババクラウド事業の当期売上は前年同期比33%の増加です。インターネット、金融サービス、及び小売業界のクライアントが成長を支えました。

10月には年次の大型イベント第13回「APSARAカンファレンス(Apsara Conference 2021)」を開催しました。参加人数では中国最大のテックイベントです。席上、サーバーチップ「Yitian710」(倚天710)、仮想化アーキテクチャ「第4世代X-Dragonアーキテクチャ」(神竜4.0)、クラウドネイティブサーバー「パンジュー」(磐久)、ビッグデータ・AIプラットフォーム「アリ・リンジエ」(阿里霊傑)、データベース「Polar(ポーラー)DB」の新バージョンなど、多くのアリババ独自開発のプロダクトが発表されました。

これらのプロダクトはアリババ・クラウドが世界最高レベルのクラウドコンピューティング能力を持つことの証明であり、IaaS(インフラ・アズ・ア・サービス)、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)の分野で、一段上のステージに上がったことを示しています。

 

将来の展望

アリババグループは今年9月、「10の取り組み」(中国の開発途上地域のデジタル化、小規模事業者・中小企業の成長支援、農業分野の産業発展、中小企業の海外市場進出、良質な雇用の創出、ギグワーカーの福利厚生の向上、都市部と農村部のデジタルライフの均等化推進、デジタルデバイドを縮小・社会的弱者に対するサービス強化、基層社会における公衆衛生の向上、200億元の共同富裕発展基金設立)を発表しました。

2025年までに1,000億元(約1兆7,800億円)をイノベーション、経済発展、良質な雇用の創出、弱者の支援などに投資してまいります。この4分野への取り組みはアリババを含め社会的責任を担う全世界の企業が、ESGの枠組みに従い、向かうべきトレンドです。

我々は10の取り組みを、ESG戦略における社会的責任として位置づけています。アリババグループの事業と技術が、世界的な取り組みにおいて、力を発揮できると確信しています。

最後に今後の展望をお話しましょう。アリババグループは「内需」「グローバリゼーション」「クラウドファンディングとビッグデータ」という三大戦略に基づく投資を継続していきます。

中国国内におけるコアコマース事業領域では、新興市場、ローカルサービス、物流への投資はユーザーの急成長と物流能力の向上という結果につながっています。世界市場においてもユーザー規模、消費規模、売上、そのいずれにおいても急成長が続いています。クラウドコンピューティングとビッグデータの領域では、核心的プロダクトと技術力の構築によって、マーケットリーダーとしての地位が高まりました。

我々を取り巻く大環境にはさまざまな課題があります。また、ライバルも増え続けています。それでも、自らの能力を高め、価値創造を堅持し、複数エンジンの成長路線を守り続けることで、クライアントと投資家の皆様に中長期のリターンをもたらすことができる。我々はそう確信しています。

 

※日本円は1人民元=17.8円、1ドル=114.3円のレートで換算しています(11月時点)、日本円数値はあくまでも参考です。
※アリババグループの2022会計年度は、2021年4月1日から2022年3月31日までの期間です

 

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