2023会計年度の年次報告書の発表に際して、アリババグループ会長兼CEO ダニエル・チャンから、株主の皆さまへのメッセージ
概要:アリババグループの年次報告書の発表に合わせて、ダニエル・チャン(張勇)会長兼CEOが株主向けにメッセージを発表した。昨年度は感染症や世界的紛争など変動の多い環境の中でも、消費、クラウドコンピューティング、グローバリゼーションの3大戦略に注力し、よりサービスを進化させることで、大きく事業が発展した。また今後は、事業で得た利益を還元し、ESGなどの社会貢献の強化に努めるとともに、コーポレート・ガバナンスの強化を徹底し、更なる発展を目指す。
アリババグループは、7月26日に、2023会計年度の年次報告書を発表しました。以下、ダニエル・チャンから株主の皆さまへのメッセージです。
株主の皆さまへ
例年、この年次報告書の発表に合わせて、私の考えを皆さまと共有させていただくことを楽しみにしています。中国のみならず世界で刻々と変化する環境の中で、この一年、私たちは多くの「現代が抱える問題」に取り組むことを余儀なくされました。アリババの今後の決断と展開は、皆さまの高い関心事であると思いますが、アリババへの変わらぬご支援とご信頼に、心から感謝を申し上げます。
昨年度は、新型コロナウイルス感染症の大流行や、中国におけるインターネット業界への新たな期待、地政学的リスクの高まりによる国際紛争の多発などがもたらす大きな不確実性に、大きく影響された一年でした。ここ数十年で最も外部環境の変化が激しかった年かもしれません。このような劇的な変化に対応するために、弊社は 「自信を持ち、柔軟に、そして私たちらしく(Be confident, be flexible and be ourselves)」を基本方針としました。
「自信を持つ(Be confident)」 とは、中国経済の発展に自信を持つこと、デジタル経済の将来に自信を持つこと、人々のより良い生活の追求に自信を持つことを意味します。これらのマクロトレンドが明確である限り、アリババの存在意義と成長に確固たる根拠があり、社会に意義のある貢献をすることができると確信しています。
「柔軟であること(Be flexible)」とは、社会経済の発展という視点からアリババを客観的に検証し、社会がアリババに寄せる期待を真に理解することで、環境の変化に積極的に対応することを意味します。社会の発展やマクロ経済の大きな流れの中で、アリババの進むべき道を見出すことが必要です。
「私たちらしく(Be ourselves)」とは、主要戦略に注力し、お客さまと社会のために価値を創造する能力を継続的に向上させることです。社会との関係や対話を深め、外部環境の不確実性に、自分たちの努力で作り出した確実性で対応していくことが必要です。
主要戦略
アリババは、困難な状況にもかかわらず、安定した実りある1年とすることができました。2022年初頭、私たちはアリババの未来を支える不動の柱として、消費、クラウドコンピューティング、グローバリゼーションの3大戦略へのコミットメントを明確化しました。
昨年度は、中国で10億人以上の年間アクティブ・コンシューマーにサービスを提供するという掲げた目標を達成しました。これは、アリババの発展にとって一つの節目となる到達点です。アリババのプラットフォームが、中国で最も広範囲で最も価値のある消費者グループを有しているだけでなく、独自の価値を提供する小売業態の総合的な基盤を徐々に構築してきたことを意味します。
昨年度、タオバオ(淘宝)とTmall(天猫)の年間ARPU(1ユーザーあたりの平均購入金額)が1万元(約20万円)を超える消費者は、1億2400万人以上おり、前年比で98%が引き続きアクティブでした。そしてタオター(淘特、旧・タオバオ特価版)において、3億人以上の年間アクティブ・コンシューマーの20%は、タオバオやTmallで買物をしたことがありませんでした。またタオツァイツァイ(淘菜菜)の年間アクティブ・コンシューマーの50%以上が初めて、アリババのプラットフォームで生鮮食料品を購入しました。
これら2つの事業は、今後、当社の小売事業の基盤全体に、より多きな貢献をしていくだろうと考えています。 私たちは、基盤設計と差別化された小売業態における異なる消費者の様々なニーズに応えることを通じて、顧客価値の創造、ユーザー体験の重視、そして多様な成長機会の創出に、これまで以上に力を注いでいます。そして、10億人の年間アクティブ・コンシューマーの財布内シェア拡大を目標にしています。
同時に、長年にわたる物流拠点の開発により、当社は徐々に、ローカル(近距離)、中距離、遠距離の配送需要を満たす分散型物流ネットワークを確立してきました。新型コロナウイルス感染症のような特殊な状況下において、私たちの総合的な物流ネットワークは、非常に貴重な存在となっています。例えば、初期に確立したパートナーシップによる全国規模の速配から、地域やローカル配送への段階的な拡大、また遠距離からローカル(近距離)まで対応した予約配送、当日配送、翌日配送、そして近年構築・拡大した都市内物流とリアルタイムの物流フルフィルメントネットワークに至るまで、充実した物流ネットワークを有しています。
時代よりも早く進化し、自己研鑽に励み、機知に富み柔軟で、組織のあらゆるチームが迅速に学び、積極的に行動できるようにしなければなりません。
- 会長兼CEO ダニエル・チャン
物流インフラの継続的な拡大とともに、ツァイニャオ・ネットワーク(菜鳥網絡)は顧客サービスも継続的に強化しています。今年度、ツァイニャオの総売上の69%は、アリババグループ外部の顧客によるもので、ツァイニャオが扱う1日の越境荷物は450万個を超えました。
私たちは、消費者向けのインターネット通販分野から産業用インターネット分野へと移行していく過程にあり、双方の統合を強化するために励んでいます。
この一年、アリババクラウドは中国市場で首位の座を維持し、13年前の設立以来、初めて通期黒字を達成しました。私たちは、アリババクラウドが設立された最初の日から、その壮大で普遍的な価値提案を信じており、クラウドコンピューティングを中心とした技術戦略に注力してきました。
今日、産業用インターネットの普及が進み、社会がスマート化、デジタル化する中で、クラウドコンピューティングは必要不可欠なものとなっています。中国のクラウドコンピューティングの市場規模は、2025年までに、現在の市場規模の3倍に相当する1兆元(約20兆円)に達すると予想されており、市場の大きな可能性を示しています。あらゆる業界や産業がデジタル化されるこの歴史的な転換点を逃さないために、私たちは技術力と製品開発力を高め、クラウドコンピューティングの基本インフラとビッグデータおよび人工知能を完全に統合させる必要があります。
あらゆる産業に深く入り込み、独自のソリューションを提供する必要があるのです。DingTalk(ディントーク、中国語:「釘釘」)」の開発により、さらに産業用インターネットへの独自の入口を持つことができました。ディントークとクラウドの統合戦略により、より多くの企業が、組織やオフィスのデジタル化から、より広範なビジネスや業務のデジタル化へと進んでいくことを支援できます。その結果、様々なシーンやニーズにおいて、クラウドコンピューティングやビッグデータ解析が広く活用されることになるでしょう。
長年にわたり、お客様とともに成長することに揺るぎない姿勢で取り組んできた結果、有料会員数は上海A株市場上場企業の60%以上を含む400万社を超えています。今後も、未来を担う産業やお客様を支援し、クラウドコンピューティング事業の質の高い持続可能な発展を共に牽引していきたいと考えています。
当社のグローバル化の方向性は非常に明確です。私たちは、消費材業界のビジネス機会追求とクラウドコンピューティングに注力しています。 私たちの3つのビジネス戦略を理解するもう一つの方法は、「2つの垂直展開(消費、クラウドコンピューティング)と1つの水平展開(グローバリゼーション)」です。現在、アリババは世界の多くの地域や国で、AliExpress、Lazada、Trendyol、Darazといった消費者向けのブランドを複数展開しています。海外市場においては、3億人以上の年間アクティブ・コンシューマーを有します。クラウドコンピューティングに関しては、アリババは世界27の国と地域でサービスを提供しています。
クラウドコンピューティング分野でアリババの優位性を証明するためには、国際市場で競争する必要があると考えています。
ガートナーの2022年4月の報告書によると、アリババグループは、2021年の売上高 (米ドル換算)で世界第3位、アジア太平洋地域では最大のIaaSプロバイダーです。2021年のガートナーソリューションスコアカードのIaaSとPaaSにおいて、アリババクラウドは100点満点中81点を獲得しています。アリババクラウドは、他のグローバルクラウドサービスプロバイダーと比較した場合、コンピューティング、ストレージ、ネットワーク、セキュリティの4つの主要評価で世界1位、最高得点を獲得しています。
未来を創る
人は往々にして、1年の変化を過大評価し、5年や10年の変化を過小評価する、という諺があります。私は、事業のなかの変更に加え、この1年で行った組織や企業文化の一連の変更が、アリババのこれからの発展の序章になると考えています。私たちは、時代よりも早く進化し、自己研鑽に励まなければなりません。合意を行動に移すスピードも速めなければなりません。たとえ、このような行動変容の実現に長い時間がかかったとしても、私たちは正しい道を歩んでいると信じています。
私たちは、マルチレベル・ガバナンスのもと、新しい経営管理体制を大胆に試みました。アリババは23年前に設立されて以来、複数の成長ドライバーとなる事業を持つ企業へと進化してきました。
アリババの多岐にわたる事業は、業界もライフサイクルも異なり、様々な機会や課題に直面しています。したがって、各事業をより独立した事業戦略で経営することで、変化する市場の需要に応じて適切な判断と意思決定を迅速に行うことができます。
また、変動しやすい環境の中で、市場の予測不可能な性質を意識する必要があります。私たちは、組織をより機敏かつ柔軟にし、組織内の各事業が素早く学び、主体的に行動できるようにしなければなりません。さまざまな事業が共同でアリババの未来を推進できるようにする必要があるのです。
消費、クラウドコンピューティング、グローバリゼーションの三大戦略をアリババの未来を支える不動の柱とするコミットメントを明確にしました。
– 会長兼CEO ダニエル・チャン
また、私たちの発展の指針となる明確な経営理念として、「能力強化(capacity building), 価値創造(value creation)」を打ち出しました。アリババのコアバリューのひとつに顧客第一主義がありますが、この顧客第一主義を実現するためには、お客様のために新しい価値を継続的に創造する必要があります。これは、私たちの能力に対する新たな要望です。競争の激しい市場では、流れに逆らって航海するようなものです。進まなければ、後退しているのです。
能力の蓄積を伴わない長期的なアプローチは本質的に空約束をしているようなものであり、価値を創造できないビジネスは健全かつ持続的に成長することはできないと、私たちは考えています。
もし新型コロナウイルス感染症のパンデミックが試金石だったとすれば、私たちの能力の蓄積と努力が、人々の生活に何らかの彩りを与え、都市や企業、学校の正常な運営に何らかの支援を提供できるということを気づかせてくれました。私たちと地域社会、零細企業や自営業者の間には、現実的で具体的でありながら捉えにくいつながりがたくさんあるのです。それによって、私たちは絶えず自分たちの能力を検証し、向上させることができるのです。私たちは、より多くを達成すべく、自分の能力を発揮してこそ、社会からの期待に応えることができるのです。
また、「能力強化と価値創造」をより確実に実現するために、OKR(目標と主要評価)を全社的に導入しています。これにより、「CEOから社員一人一人まで同じ想いを抱く」を共有し、単なる定量主義からより価値主義へと進化することを目指します。
持続可能な発展
昨年浙江省烏鎮で開催された世界インターネット会議において、ESGと共同富裕をアリババの社会的責任の2大戦略として正式に発表しました。また2021年12月には、「カーボンニュートラル行動計画」を発表しています。これはアリババの発展における重要な節目となります。
2030年までに自社事業でカーボンニュートラルを達成すること、2030年までにバリューチェーンの上流・下流パートナーとの連携により炭素強度を50%削減すること、クラウドコンピューティングで率先してカーボンニュートラルを達成し、グリーンクラウドとなること、プラットフォームの力を活用して15年間で累計15億トンの炭素排出量の削減を促進すること、などを目標として掲げています。これらは野心的な目標であると同時に、真剣に取り組むべきコミットメントでもあります。
同時に、これらの目標が、持続可能な発展を追求するために、積極的に変化を求め、イノベーションを推進し、さらには既存ビジネスを創造的に破壊する機会にもなることを期待しています。私たちは、持続可能性に関する目標があらゆる産業を大きく変容させると信じており、より早く、より先の未来を見据える必要があります。
社会的責任は、アリババのDNAに深く刻み込まれています。私たちはプラットフォームプロバイダーとして、本質的に社会的な交流を促進してきました。そのため、プラットフォーム上の様々な参加者間の広範囲に及ぶ協力は、イノベーションと新しいビジネスをもたらすだけでなく、多大な雇用機会をも生み出しました。パンデミックやその他の理由による大きな不確実性はありますが、それでも今年は5,800人以上の新卒者がアリババに入社する予定です。
2021年、中国の歴史的で包括的な貧困緩和の達成に伴い、「アリババ脱貧困基金(Alibaba Poverty Alleviation Fund)」を「農村振興基金(Rural Revitalization Fund)」に格上げしました。産業活性化、人材活性化、技術力活性化という3つの側面から農村活性化を支援しました。また、昨年後半には10個の重点計画を打ち出しました。
複数の事業を巻き込み長期的な計画を立てることにより、商業的価値と社会的価値の双方を考慮しながら、一歩一歩着実に戦略を実行していくことを目指しています。まずは浙江省から開始し、技術革新、経済発展、雇用創出、社会的弱者へのケアに注力していきます。河南省の洪水であれ、上海のパンデミックであれ、私たちは長年にわたって蓄積してきた商業インフラと能力を通じて、人々の生活のニーズを支えるためにできる限りの貢献をしてきました。
また、この1年間はコーポレート・ガバナンスの改善にも努めました。私たちは、従業員のひとりひとりの成長を支え、活気ある職場環境を提供することを約束します。
介護休暇や柔軟な勤務体系、より利用しやすい無利子住宅ローンなど、会社の新しい福利厚生を享受する社員が増えています。私たちは、従業員が成長の原動力であると信じており、常に従業員のためにもっと多くの支援を提供することを目指しています。
これからも、アリババは持続可能で質の高い発展の道を歩むことを約束します。まもなく発表されるESG年次報告書では、環境保護、社会的責任、コーポレート・ガバナンスにおける当社の進展について、より詳しくお伝えしていきます。
この23年間を振り返ってみると、アリババは一つの時代の最先端を走ってきたと言えるでしょう。アリババは、デジタル経済と中国の急成長がもたらす機会を創造し、勝ち取ってきました。
アリババの歴史は、中国の発展と密接に関係しており、アリババの将来は、技術革新、より良い生活水準、質の高い発展の追求、国際競争力の強化など全てにおいて、今後も中国の経済成長および社会発展と足並みを揃えていくことでしょう。
私たちは、アリババでより多くの発明や創造が生まれ、私たちの社会全体の利益に貢献できることを期待しています。
世界は変化し続けますが、価値観は永遠です。不確実な時代であればあるほど、有益な変化を積極的に求めていくことが必要です。私は入社15年目になりますが、皆さんと一緒に、これからもアリババにより良い変革をもたらしていきたいと思います。
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