アリババグループ董事会主席兼CEOより、株主の皆様への書簡
敬愛なる投資家の皆様
昨年お手紙をしたためた時には、1年後には世界の扉は再び開き自由な旅行が戻ってくると考えておりましたが、コロナ禍は依然として収束しておりません。この1年、皆様やご友人、家族の皆様が健康であったこと、そしてなにかしらの収穫がある年であったことをお祈りしております。そして、この厳しい時期にあっても変わらぬ皆様の理解と支持、そして信頼に厚くお礼申し上げます。
我々は未曾有の1年を過ごしてきました。先の見えぬ新型コロナウイルスの流行だけではありません。国際情勢、世界経済、マクロ環境、そのすべてに深刻かつ長期的な変化が起きています。その変化の多くはアリババにとって初めて体験するものです。世界最大の消費市場、そして世界でもっとも強い回復力を誇り、活力に満ちたサプライチェーンを持つ中国を拠点としていることは、我々にとって幸運でした。新型コロナウイルスの流行の最中にあっても、中国は世界に先駆けて経済と生活の秩序を取り戻しました。これにより、長期的成長という我々の自信はより強固なものとなりました。
多くの課題に直面していますが、我々は全力で理想とミッションの実現に取り組んでいます。課題の中からチャンスをつかもうとしているのです。2021年3月末時点、アリババエコシステムが全世界に擁するAAU(年間アクティブユーザー)は11億3000万人と、10億の大台を突破しました。傘下の東南アジアEC(電子商取引)プラットフォームのLazada(ラザダ)は高成長を続けています。B2C(一般消費者向け)越境ECのアリエクスプレス(AliExpress)は欧州で急成長を続けていますし、トルコのECプラットフォーム「Trendyol」を筆頭に、アリババの出資企業も健全な成長を続けています。アリババグループの海外コンシューマーは2億4000万人に到達しました。グローバル化戦略は着実に進展しています。アリババの各種プラットフォームにおける累計GMV(総流通額)は8兆1190億元(約138兆円)に達しました。この金額以上に重要なのは、アリババが中国市場で広範かつ消費能力の高いユーザー基盤を擁していることです。2020年4月から2021年3月末までの1年間(以下、2021会計年度)、中国小売市場の1人当たり平均取引額は9200元(約15万円)を超えています。
続いて、ニューリテール戦略についてお話します。2016年の戦略発表以来、我々は数年をかけて、複雑な小売業界について理解を深めてきました。その知見を元に、ダールンファ(大潤発、RT-Mart)をはじめとする伝統的小売チェーンの改造、オンラインとオフラインを一体化した新型生鮮スーパーであるフーマー(盒馬鮮生)の立ち上げなどに取り組んでいます。オンラインとオフライン、どちらの消費者にも満足いただけるように配送方式の多様化を進めました。注文から「1時間以内配送」「半日以内配送」「翌日配送」などの多くの選択肢が用意されています。2020年からは「注文翌日の拠点配送」という新たな方式も登場しました。これは主に団地住まいの市民を対象としたものです。ニューリテール戦略では多層的かつ多業態の販売ネットワークが用意されていますが、その中でも特に地方や農村に多い価格に敏感なユーザーをターゲットにした、我々にとっても重要なプランです。アリババはサプライチェーン、物流ネットワーク、消費者運営などの能力を長年磨いてきました。さらにソーシャルコマースを武器として、伝統的なECの枠を跳び越えようとしています。ニューリテールをさらに多様で豊かにすることで、健全かつ持続可能な発展の道を探すチャンスを得ました。
次にクラウドについてお話しましょう。アリババクラウドは、アリババの未来を担う第二の成長曲線です。2021会計年度の売上は、前年度比50%増の600億元(約1兆円)を突破。調査会社ガートナーによると、IaaS(インフラ・アズ・ア・サービス)で世界3位となりました。さまざまな業種業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するインダストリアル・インターネット(ICTを活用した新たな産業高度化)は、全世界共通のビッグチャンスだと確信しています。今後、アリババクラウドはさらに発展を加速させます。中国という世界最大の経済体の一つを基盤としていること、すべての企業がIT企業に変わるという時代転換のチャンス、そしてアリババが過去20年にわたり一貫して磨き続けてきたデジタル化とAIの世界トップレベルの能力が武器となります。中国のインダストリアル・インターネットが世界をリードできるよう、アリババは力を尽くします。インダストリアル・インターネットの発展とは、つまるとこる各種業界、産業のスマート化を意味しています。これを実現する我々の戦略ですが、クラウドコンピューティングとビジネス・コラボレーションツールである「ディントーク」の一体化戦略の継続、ディープテック(世界を取り巻く社会課題を解決する可能性を秘めた革新的な科学技術)とミドルプラットフォーム(企業の中核能力をデジタル化方式で集約と共有、再利用を図り、サービスとして提供するプラットフォーム)の強化、エコシステムの強靱化、サービスの向上で挑みます。各種業界、産業のクライアントにサービスを提供するなかで、クライアントも我々も一緒に成長していきます。そうして、クラウドという第二の成長曲線を未来の目標から現実へと変えていくのです。
アリババは創業初期に「あらゆるビジネスの可能性を広げる力になる」というミッションを定めました。創業からの22年間、未来のための投資を怠ったことはありません。これは私たちの発展の基盤であり、過去も未来も変わることのない使命です。アリババクラウドは10年以上をかけて、世界をリードするポジションを獲得しました。未来への投資を続けたからこそ、時代の最先端に立てたのです。ECなどのコンシューマー・インターネットに加え、インダストリアル・インターネットも持つ、二つのエンジンを持つ会社となることができました。ニューリテール戦略も同じく、未来への投資という蓄積によって多様かつ立体的な布陣を組むことができました。アリババにはもう一つ、イノベーションの旗手があります。マップアプリの高徳地図がアリババエコシステムに加わって8年になりますが、DAU(日間平均アクティブユーザー)は1億人前後で安定しています。そしてたんなるマップアプリではなく、多機能の生活サービスプラットフォームへと深化しつつあります。
さて、アリババには独特の企業文化があります。人間中心、イノベーションへの挑戦を堅持する、この姿勢は不変です。人間味のある組織でなければ偉大な仕事は成し遂げられないと確信しているからです。イノベーションの継続、それが優秀な人材を集めるための最良の手段です。イノベーションを止めさえしなければ、活力ある若者たちがジョインしてくれるのですから。互いにたたえあい、尊重しあい、成果を生み出していく。そうした長期的関係を構築しなければなりません。今、我々はイノベーティブな多元的ガバナンスを模索しています。世界全体を見ても、この取り組みに成功している企業はほとんどありません。経営、ガバナンス、評価、褒賞などの制度をについて、全方位的な改革を進めます。よりスピーディーな組織、よりシンプルな文化を目指し、「顧客体験に基づき、顧客価値にフォーカスし、顧客満足を生み出す」ことを実現します。
プラットフォーム経済について、お話しましょう。全世界が直面する新たな課題です。私たちはプラットフォーム経済についてより深く理解するチャンスをいただきました。2021年4月10日、アリババグループは国家市場監督管理総局の行政処罰書を受け取りました。謹んで受け取り、その指示に全面的に従います。この処罰は私たちに振り返るチャンスを与えてくれました。デジタルエコノミーのインフラを志す、アリババのようなプラットフォーム企業はどのように振る舞うべきなのでしょうか。より大きな視点で考えなければなりません。社会各界のパートナー企業といかに調和、共存するか。いかにしてより良い取り組みができるのか。プラットフォーム企業と社会の発展をいかに共振させられるのか。プラットフォーム企業はそもそもパブリックな役割を持っています。社会的価値を創造できるのか、重要な技術問題をどれだけ解決できるのか。農村の発展を支持できるのか。よりエコで持続可能な社会を築くためにはどうすればいいのか。なにより、プラットフォームの力で人々の力をつなぎ合わせ、本当の意味で責任を担う、良き企業として振る舞うにはどうすればいいのか。こうした思考をめぐらせる機会を得たのです。
新たな会計年度が始まりました。デジタル化がもたらす新たなビジネス、この世界についての理解が深まるにつれ、アリババがいかなる企業を目指すべきかという目標も明確になっています。コンシューマー・インターネットとインダストリアル・インターネットが結合した、より良き企業。これが最終的な目標であり、重要な未来への指針です。アリババはIT企業として出発しました。「オープン」「透明性」「世界を結びつける」というインターネットの特長はよく理解しています。そして今、アリババは複数のエンジンを持つ企業へと成長しつつあります。伝統的ビジネスの変革をサポートすることで、より多くの顧客価値とユーザー価値を生み出すのです。デジタル経済のインフラ整備にアリババが貢献する 、その目標に向かって邁進しています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。最後に皆様の変わらぬ支持に再度の感謝を申し上げます。さらなる努力を重ね、皆様の信頼にお応えします。より暖かく、より美しい未来の到来を期待しましょう。
ダニエル・チャン
アリババグループ会長兼CEO
※日本円は、2021年7月時点のレート1元=17円で換算
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