アリババグループ会長兼CEOダニエル・チャンより2022年4-6月期決算に関するメッセージ
概要:アリババグループの2022年4-6月期(2023年度第1四半期)決算発表後、ダニエル・チャン(張勇)会長兼CEOが、投資家向けにメッセージを発表した。社会的変動が多く不確実な環境下にもかかわらず、3つの主要戦略に注力したことで、徐々に回復の兆しが見え始めている。今後も自社の中核となる独自の技術やサービスを発展させながら、事業のグローバル化を目指す(以下は、8月4日の決算発表でのメッセージ全文)
皆さん、こんにちは。本日は、当社の決算説明会にご参加いただき、ありがとうございます。
当社は、この四半期における過去に例をみない困難を乗り越え、安定した業績を達成しました。中国国家統計局が発表したデータによると、中国における前四半期のGDPは0.4%の成長で、新型コロナウイルス感染症発生以来、最低値となりました。
上海などの大都市における新型コロナウイルス感染症の再流行により、小売の売上高は、4月と5月には前年同期比で減少したものの、6月に入り緩やかに回復しました。軟調な経済環境にもかかわらず、戦略的事業において、効率を改善したことにより、安定した収益を確保し、損失を縮小することができました。
このようなマクロ環境の不確実性に対応するため、株主の皆さまへの年次報告書にも書いたとおり、弊社は「自信を持ち、柔軟に、そして私たちらしく(Be confident, be flexible and be ourselves)」を基本方針としてきました。
私たちは、デジタル経済の未来に「自信を持って」います。業界や市場を超えた普遍的なトレンドであるデジタル化が、社会経済に占める割合はますます高まっていくと確信しています。
「柔軟に」とは、外部環境に積極的に適応し、社会的・経済的発展のサイクルの中で自らの道を見出すことです。
そして「私たちらしく」は、「102 年続く良い会社になる」というビジョン達成のために、「消費」「クラウドコンピューティング」「グローバリゼーション」という3つの主要戦略に集中し、ESG を基盤として質の高い成長を実現することを意味しています。
今後は、中国でのユーザー数の絶対的な増加を追求するのではなく、
様々な消費者セグメントにおける財布内シェアの拡大に注力していきます。
ダニエル・チャン アリババグループ会長兼CEO
具体的には、今日の不確実性の高い環境において、以下の3つの主要戦略を実行し、質の高い成長を実現しています。
まず「消費」に関しては、当社の強みである総合的なフルフィルメント能力を基盤としたEコマースインフラを活用し、多様な消費者層に対応するとともに、需要の堅い消費財に集中しています。中国では、昨年度すでに、年間アクティブ・コンシューマー(AAC)数10億人という目標を達成しました。
今後は、中国におけるユーザー数の絶対的な増加を追求するのではなく、様々な消費者層における財布内シェアの拡大に注力していきます。
「クラウドコンピューティング」では、当社の競争優位性である独自技術を高めることに注力します。それと同時に、将来にわたって成長していく産業と顧客の支援に注力します。
「グローバリゼーション」では、今後5年から10年の間に経済発展が見込まれる市場に焦点を当て、現地の経営資源への投資、物流やクラウドにおけるインフラの構築を行います。
回復の兆し
この四半期で、タオバオ(淘宝)とTmall(天猫)のGMV(流通総額)は、前年同期比で1桁台半ばの減少を記録しました。新型コロナウイルス感染症の規制緩和により、物流やサプライチェーンの状況が徐々に改善され、6月以降回復の兆しが見えてきました。
過去2、3ヶ月間、当社のタオバオアプリのデイリーアクティブユーザー(DAU)数と消費関連のページビュー(PV)数は、市場の変動にもかかわらず、比較的安定して推移しています。最も購買力のある消費者は、当社のプラットフォームに対して強いロイヤリティを示しました。
昨年7月から2022年6月30日までの12カ月の間に、1億2,300万人以上のAACが、タオバオとTmallで1万元(約20万円)以上を消費しました。また、前年同期比で約98%の顧客維持率を記録し、2022年3月末時点のデータとほぼ同じ値となりました。
最も重要なプレミアムユーザーである88VIP会員は、健全な増加を続け、同四半期末には2,500万人となり、会員1人当たりの年間平均利用額は57,000元(約114万円)超となりました。
特にファッションや電子機器など、ここ2、3カ月で比較的打撃を受けた分野においては、6月と比較して、7月の業績が徐々に回復してきています。
近年、位置情報を活用したEコマースのインフラを拡充する中で、当社の多様なビジネスモデルは相互補完的な役割を発揮していると言えます。
例えば、タオバオとTmallの一部分野では、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた一方で、小売チェーンスーパーのフーマー(盒馬鮮生)やデリバリープラットフォームのウーラマ(餓了麼)といった事業はファミリー層のニーズを満たすことで、食料品や日用品の分野において成長機会を得ました。
第1四半期で、フーマーのGMVは前年同期比で30%以上、ウーラマの非レストラン・デリバリーのGMVは前年同期比で50%以上増加しました。
競争戦略
私たちは、様々な形態のEコマース間の競争が激化するなか、タオバオとTmallのGMV全体の伸びが、前四半期の中国における小売売上高の伸びを下回っていたことを認識しています。弊社の立場から、私たちの競争戦略について明確にしたいと思います。
消費者向けでは、様々なEコマース形態で多様な顧客体験を提供しながら、主要なショッピング先としてタオバオアプリのマインドシェアを引き続き向上していきます。
不確実性の高い市場環境では、購買力の高い消費者グループに注力してサービスを提供していきます。一方で、様々なユーザー層向けに、タオター(淘特、旧・タオバオ特価版)、タオツァイツァイ(淘菜菜)、Idle Fish(閑魚)、フーマーなどを通じて、多様な価値提案を提供します。
マーチャント向けでは、持続可能な事業運営のための主要プラットフォームとしての地位を強化するため、ツールやサービスの拡充を図っていきます。また、中国コマース事業における当社の運営品質も活かしていきます。現在の事業規模は同業他社よりもはるかに大きく、特に、収益性における優位性は事業規模以上に差をつけています。
そのため、弊社の資本準備金を最大限に活用し、消費者のマインドシェア、ユーザー体験、そして物流やアフターサービスなどの主要分野における重要な経営資源の構築に投資し、これらを長期的な戦略として実行していきたいと考えています。
4 月から 5 月にかけて上海や北京などの大都市では、新型コロナウイルス感染症が再流行したため、市内コマースとフルフィルメントを統合したデジタルネットワークが、現代の中国での都市生活における新しいインフラとなっています。
この第1四半期で、ウーラマのレストランデリバリーの取扱数量は、新型コロナウイルス感染症の規制により打撃を受けました。しかし、食料品、日用品、医薬品などの非レストランデリバリーの注文量が急増し、梱包サイズもレストランデリバリーよりはるかに大きいため、第1四半期のGMVはそれほど影響を受けていません。
新型コロナウイルス感染症の影響が和らいだことで、ウーラマ事業が回復し、6月にはGMVが前年同期比プラスに転じました。一方、フーマーとサンアート・リテールは、パンデミックの影響でオフラインの売上が減少しましたが、Eコマースと市内フルフィルメント機能を活用し、地域社会への日常必需品の供給支援活動において重要な役割を果たしました。第1四半期フーマーとサンアート・リテールのオンライン売上比率は、それぞれ68%と36%に達しました。
第1四半期で、ウーラマのユニットエコノミクス(1受注あたりの収益性)は、平均注文金額の増加、ユーザー獲得費用の最適化および注文あたりの配送コストの削減に継続的に取り組んだことなどにより、プラスに転じました。
ウーラマは、今後も都市戦略に注力し、レストランデリバリーだけではなく、あらゆるもののデリバリーをするブランドとしての地位をより確固たるものにするとともに、営業効率を高めていきます。今期中にはウーラマの営業損失をさらに縮小できると確信しています。
ローカルサービス事業におけるもう一つの重要な事業であるAmap(高徳地図)は、目的地検索をベースにしたサービス発見・取引プラットフォームとして成長を続けました。
新型コロナウイルス感染症の影響が緩和され、また、地域コンテンツやサービスの拡充が進んだことにより、AmapのDAU数は、6月に1億2千万人を超え、過去最高となりました。
グローバルな展望
東南アジアおよび欧州における当社のグローバル小売事業は、EUの付加価値税(VAT)ルールの変更、現地通貨の下落、ロシア・ウクライナ紛争、新型コロナウイルス感染症の規制解除後のオフライン活動の正常化などにより、減少しました。
しかし、このような状況下においても、デジタル化の流れの中で、国際市場には大きな可能性があると考えています。
現在、当社はグローバル市場において一定の足場を築いています。当社のグローバル小売事業は、合計で年間500億ドル以上(約6兆7500億円)のGMVを有しています。
今後は、越境事業とローカルサービス事業の双方を成長させ、物流プラットフォームを中核機能として構築することに引き続き注力していきます。
目先の売上変動はあっても、中国から欧州までの国際物流ネットワークと東南アジアにおける地元の物流ネットワークの構築に引き続き注力していきます。これらのインフラの構築は、長期的な価値をもたらすと考えているためです。
第1四半期のクラウド事業の売上は、前年同期比で10%の伸びを達成しました。売上成長の鈍化は、マクロ経済活動の鈍化、インターネット業界の最上位顧客からの収入減少、中国のインターネット業界の顧客からの需要軟化、新型コロナ感染症再流行の影響によるハイブリッドクラウド事業の一部遅延など、複数の要因によるものです。
不透明な景気の先行きとインターネット業界の減速の中、当社のクラウド事業は引き続き以下の点に重点を置いていきます。1)コンピューティング、ビッグデータ、人工知能など主要分野における独自の技術力構築、2)成長可能性の高い産業と顧客の特定による産業向けインターネットの成長機会の獲得、3)クラウドのデータセキュリティ能力の強化などです。
不確実な時代には、自社に投資し、中核能力を高め、
改善を続けることが最良の過ごし方だと信じています。
ダニエル・チャン アリババグループ会長兼CEO
これらの戦略にはすでに一定の進展が見られています。クラウド事業におけるインターネット以外の業界からの収益の割合は、第1四半期で53%となり、前年同期比で5%以上増加しました。
当期には、全国的に新型コロナウイルス感染症の規制が強化されたため、在宅勤務や自宅学習のためにDingTalk(釘釘)を導入する法人顧客が増えています。
DingTalkは、共同文書作成やバーチャル会議などの主力オフィス製品の機能をさらに向上させ、ユーザーへの浸透を図ることで、仕事用デジタル・コラボレーション・プラットフォームとしての地位を強化していきます。
また、ローコードアプリケーション開発プラットフォームとしての機能を強化し、DingTalk上で、より多様なアプリの開発・利用を促進していきます。
そしてESG戦略の一環として、当社は優れたコーポレートガバナンスと取締役会における多様性に取り組んでいます。本日、新たに2名の社外取締役を任命したことを発表しました。
Irene Lee氏とAlbert Ng氏は、グローバルな洞察力と中国での経験を持ち、尊敬されるビジネスリーダーです。両氏の参加は、当社の取締役会に大きな価値をもたらすと確信しています。
また、社外取締役の一人である Tung Chee Hwa氏 は、9 月に任期満了を迎えますが、再選の予定はありません。長年にわたるアリババへの多大な貢献に対し、心より感謝申し上げます。
進むべき道
最後に、現在のミクロ環境の中で、私たちが考える今後の道筋についてお話したいと思います。
国際的な地政学的リスク、新型コロナウイルス感染症の再流行、中国のマクロ経済政策や社会動向など、外的な不確実性は、私たち一企業が対応できる範囲を超えています。
今、私たちにできることは、自らを高めることに集中することのみです。
例えば、先ほど申し上げたように、第1四半期では、タオター、タオツァイツァイ、フーマー、ウーラマ、Lazada、ヨウク(Youku)などいくつかの事業分野において、営業効率の改善とコストの最適化により、営業損失の縮小に有意義な進展がありました。
現在も、組織全体の運営の質を高めるために改善を続けています。これは、不確実性の高い環境の中で、自らの努力によって実現できることだと考えます。
このような課題に直面しているにもかかわらず、当社の最大の強みであるフリーキャッシュフローと実質的な手元資金により、全体として当社は健全な財務体質を維持しています。不確実な時代には、自社に投資し、中核能力を高め、改善を続けることが最良の過ごし方だと信じています。
私たちは、質の高い消費者へのサービス、Eコマースのための質の高いインフラの構築、質の高い技術革新の推進に引き続き注力していきます。
これらの取り組みが、当社の健全かつ持続可能な発展のための基盤になると確信しています。
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