アリババDAMOアカデミー、2022年のテクノロジートレンド予測を発表

アリババグループのグローバル研究機関であるアリババDAMOアカデミー(中国語:達摩院)は2021年12月28日、今後のテクノロジー業界にもたらされる変化を予測したDAMOアカデミー テクノロジートレンド予測 2022を発表しました。

DAMOアカデミーは、過去3年間に発表された数百万件の論文や特許出願の分析、また科学者約100人に実施したインタビューをもとに、主に今後5年以内に経済や社会全体のさまざまな分野で加速してブレークスルーや影響を与えると予想されるテクノロジートレンド・トップ10を紹介しています。

アリババDAMOアカデミーの責任者であるジェフ・チャン(Jeff Zhang)は、次のように述べています。

「過去1世紀にわたって、デジタルサイエンスの進化は技術向上と産業発展の限界を押し広げ、社会に多大な便益をもたらしてきました。現在、私たちは急速に進化するデジタル環境の真っ只中にいます。私たちが生活する物理的な世界はさらにデジタル化やネットワーク化が進み、インテリジェントなオンラインの世界とますます統合していきます。私たちは、バーチャルリアリティ技術(VR)が人間と機械の相互作用を再構築し、AIなどの最先端技術が医学研究や気象予報、製造業などの産業変革を推進する世界へと移行しようとしています。私たちは低炭素経済の推進に向けたデジタル技術の導入にも積極的に取り組んでいます。アリババDAMOアカデミーではより良い未来のために良い技術を開発するべきだと考えており、今後もこの信念に変わりはありません。」

アリババDAMOアカデミーの2022年のテクノロジートレンド予測の詳細は以下の通りです。

トレンド1:クラウド、ネットワーク、デバイスの融合

新しいネットワーク技術の急速な発展により、クラウドコンピューティングは、クラウドとネットワーク、デバイスが融合された次世代のコンピューティングシステムへと進化していきます。新たなシステムでは、クラウド、ネットワーク、デバイスの役割分担がより明確になります。クラウド、ネットワーク、デバイスの融合は、産業用の高精度なシミュレーションやリアルタイムの品質検査、複合現実(MR)など、より要求の高いタスクを実現する新たなアプリケーションの出現を促進します。今後2年間で、新たなコンピューティングシステム上で動作するアプリケーションが急増すると予想されます。

トレンド2:科学研究のためのAI

過去数百年において、科学界には実験科学と理論科学という2つの基本的な枠組みがありました。現在、AI技術の進歩によって、新たな科学的パラダイムが実現しています。機械学習では膨大な量の多次元データを処理し、複雑な科学的問題を解決できるため、これまで不可能と思われていた分野での科学的探求が盛んになります。AI技術は、科学研究のスピードを加速させるだけでなく、新たな科学法則の発見にも貢献します。今後3年間で、AIは応用科学の研究過程で広く応用され、一部の基礎科学では生産ツールとして使われるようになると予想します。

トレンド3:シリコンフォトニクスチップ

トランジスタのサイズが物理的な限界に近づくにつれて、電子チップの開発が、ハイパフォーマンス・コンピューティングの台頭により増大するデータ・スループットの要求に対応しきれなくなりつつあります。シリコンフォトニクスチップは、電子チップとは異なり、電子の代わりに光子を使ってデータを転送します。光子は互いに直接作用せず、長距離を移動することができ、光子を利用するシリコンフォトニクスチップはより高い計算能力とエネルギー効率を提供できます。クラウドコンピューティングやAIの台頭により、シリコンフォトニクス技術は急速に発展しています。今後3年間で、大規模データセンターでの高速データ伝送にシリコンフォトニクスチップが普及することが予想されます。

トレンド4:再生可能エネルギーのためのAI

近年、風力発電や太陽光発電などの技術が急速に発展しており、これらの再生可能エネルギーは有効なエネルギー源となっています。しかし、電力網の統合の難しさ、エネルギー利用率の低さ、余剰エネルギーの貯蔵などの問題が、効果的な運用に向けた大きな障害となっています。再生可能エネルギーの発電量は予測不可能であるため、再生可能エネルギー源を電力網に統合することは、電力網の安全性と信頼性に影響を与える課題となります。エネルギー業界におけるAIの応用は、電力システムの効率化と自動化を進め、資源の利用と安定性を最大限に高める上で極めて重要であり、またカーボンニュートラルの達成にも資するものです。今後3年間で、AI技術は再生可能エネルギー源の電力網への統合への道を開き、電力網の安全性、効率性、信頼性の高い運用に貢献すると予想しています。

トレンド5:高精度医療

医療は医療従事者の専門性に大きく依存する分野であり、また患者ごとに治療の有効性が異なる場合があります。AI技術と高精度医療(Precision Medicine)の融合は、専門知識と新たな補助診断技術の統合を後押しし、臨床医学において信頼に値する指針になることが期待されています。高精度医療を通じて、医師は可能な限り迅速かつ正確に病気を診断し、医療判断を下せるほか、重篤な疾患の定量化や計算、予測、予防が可能になります。今後3年間で、人を中心とした高精度医療技術は、病気の予防や診断、治療など、ヘルスケアの複数の分野にまたがる大きなトレンドになることが予想されます。AIは、病気とその治療法をピンポイントで把握できる高精度な羅針盤となるでしょう。

トレンド6:プライバシー保護コンピューティング(Privacy-preserving Computation

長い間、パフォーマンスのボトルネックや技術への信頼性の低さ、標準化の問題などから、プライバシー保護コンピューティングの応用は小規模な計算の狭い範囲に限られていました。しかし、専用チップ、暗号アルゴリズム、ホワイトボックス実装、データトラストなどの統合技術が次々と登場する中で、少量のデータやプライベートな領域のデータを処理することから一歩進んで、大量のデータを処理したり、あらゆる領域のデータを統合したりするような場面で、プライバシー保護コンピューティング技術が採用されるようになります。これにより新たに、あらゆる領域のデータを活用した生産性の向上が期待できます。今後3年間で、プライバシー保護コンピューティングの性能が画期的に向上し、データ流通において信頼性の高いサービスを提供する企業が出現するでしょう。

トレンド7:拡張現実(Extended Reality / XR

クラウド・エッジ・コンピューティング、ネットワーク・コミュニケーション、デジタル・ツインなどの技術の発展により、XR分野は本格的に開花します。XRメガネを使用して、複合現実によってもたらされる没入感のあるインターネット体験が実現します。XRは、電子部品、デバイス、オペレーティング・システム、アプリケーションを含む新たな産業エコシステムに根付く技術となります。デジタルアプリケーションを再構築し、エンターテインメント、ソーシャルネットワーキング、オフィス、ショッピング、教育、ヘルスケアなどの分野で人々がテクノロジーに接する方法に革命をもたらします。今後3年間で、普通のメガネと見分けがつかないような新世代のXRメガネ製品が市場に投入され、次世代インターネットへの重要な入口となることが期待されています。

トレンド8:パーセプティブ・ソフトロボティクス

パーセプティブ・ソフトロボティクスとは、従来のロボットとは異なり、物理的に柔軟なボディを持ち、圧力や視覚、音に対する知覚を強化したロボットを指します。これらのロボットには柔軟なエレクトロニクスや、圧力に適応する材料、AIなどの最先端技術を活用しており、高度に専門化された複雑な作業を行い、さまざまな物理的環境に適応して変形します。知覚能力のあるソフトロボティクスの出現は、標準化された製品の大量生産から、特殊化された少量生産へと製造業の流れが変わっていくことが予想されます。今後5年間で、パーセプティブ・ソフトロボティクスは、製造業における従来型ロボットに取って代わり、また日常生活におけるサービスロボットの普及への道を開くと予想されます。

トレンド9:衛星と地上間の統合コンピューティング

地上のネットワークやコンピュータシステムは、人口密度の高い地域ではデジタルサービスを提供していますが、砂漠や海、宇宙などの人口密度の低い地域では十分にサービスが提供されていません。衛星地上連携型コンピューティング(satellite-terrestrial integrated computing)技術は、人工衛星と地上の移動体通信ネットワークを接続し、シームレスで多次元的なカバレッジを実現するほか、衛星ネットワーク、地上通信システム、クラウドコンピューティング技術を統合したシステムを構築します。これにより、デジタルサービスはよりアクセスしやすく、包括的なものになります。今後5年間で、人工衛星と地上システムがコンピューティングノードとして機能し、高い接続性を提供する統合ネットワーク・システムを実現します。

トレンド10:大規模と小規模のAIモデルの共進化

未来のAI技術は、クラウド、エッジ、デバイスを介した大規模モデルと小規模モデルの共進化に移行していくと予想されます。基礎モデルとも呼ばれる大規模な事前学習モデルは、弱いAIから一般的なAIへの基盤技術であり、深層学習を用いたさまざまなアプリケーションの性能を相対的に向上させます。しかし、性能向上のメリットと消費電力のバランスが取れていないことから、大規模モデルの発展には限界があります。未来のAI技術は、基盤モデルのスケーラビリティに関する競争から、クラウド、エッジ、デバイスを介して大規模モデルと小規模モデルの共進化へ移り、より実践的に役立つものと予想されます。

 

より詳細な情報に関しては、こちらのフルレポート(英語)にてご覧いただけます。

 

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