低速自動運転・水素燃料電池・仮想現実…物流業界を変える十大物流テック

解説:
テック業界では、さまざまなバズワードが飛び交うのが常だ。その中でも、実際に社会で実装される技術はごく一部で、多くはコンセプトだけが報じられては消えていく。アリババグループの物流プラットフォームである「菜鳥網絡(ツァイニャオ・ネットワーク、以下「菜鳥」)」と中国浙江大学・物流関連の研究所が共同で発表した「物流テック・十大トレンド」はコンセプトではなく、普及する確率がきわめて高い技術を取り集めたもの。電子タグや通信技術によるデジタル化の進展や用途を限定した自動運転など、実証が終わり普及段階に入りつつある技術が紹介されている。

 

浙江大学の物流・方策改善研究所は、アリババグループの物流プラットフォームである「菜鳥」と共同で、「2022年物流テック・十大トレンド」を発表しました。以下の技術トレンドが選出されています。

・より高精度な電子タグ「RFID」技術

・低速自動運転車

・水素エネルギー

・サプライチェーン・デジタル化

・エコ包装

・物流オールチェーン・オンラインコラボレーション

・中国農村部ネットワークの自動化

・XR技術(仮想現実・拡張現実など、あらゆる仮想世界を体験できる技術の総称)

・LPWA(低消費電力による長距離での無線通信)ネットワーク

・物流シーンにおけるAI(人工知能)応用


トレンドの選出にあたっては、その技術が物流業界の現場に実装できるかどうかが判断基準となります。
「さまざまな技術が物流業界にとっての重要な生産力となっているが、本当に実装できるのか、業界に本当の価値をもたらすことができるのか、それが重要だ」同研究の責任者でもある楊翼(ヤン・イー)教授(浙江大学物流・方策改善研究所所長、データ分析・管理国際研究センター副主任)の言葉です。「将来的に広く普及するか、物流業界の課題を解決できるか、それが物流テックを判断する重要な指標になる」と指摘しています。

自動運転、新エネルギー、AIなどの最先端技術、あるいは自動化、サプライチェーンのデジタル化、エコ技術などの広く認知されている技術、そのいずれであれ、コンセプトだけで終わるものではなく、物流の現実的課題を解決するために必要なものです。

たとえば、水素エネルギーです。二酸化炭素排出量削減のためにトラックの動力を変える必要がありますが、バッテリーを搭載したEV(電気自動車)では充電時間などの問題から代替は困難です。水素を使った燃料電池車のほうが有望とみられています。

自動運転では、長距離運送や都市内配送の実現にはまだ時間がかかりますが、ラストワンマイルの末端配送を担う低速自動運転車はもっとも実用化に近い用途だと分析されています。また、中国農村部における物流の自動化も進展が見込まれています。宅配便の農村進出が進むにつれ、先進的な自動化技術も実装されていくためです。

菜鳥はいち早く、この十大トレンドに取り組んでいます。

RFIDについては、チップセットとアルゴリズムの改善に努め、精度を99.8%にまで高めました。ビジネスでの大規模な活用を実現するイノベーションです。また、菜鳥が保有する低速自動運転配送車数は中国最大規模です。2021年11月に開催されたメガセール「天猫ダブルイレブン・ショッピングフェスティバル」(通称は「独身の日セール」)では中国全土の200を超える大学キャンパスで、350台以上が運用されました。サプライチェーン・デジタル化の取り組みではP&G、ユニリーバ、ネスレなどの多国籍企業に加え、上海GM五菱汽車、宝武集団、徐福記、五糧液などの大手中国企業と提携しています。また、各種産業集積地の中小企業とも協力し、企業の垣根を越えたサプライチェーン・システムの構築を進めています。

エコ物流の技術では、報告書はツァイニャオとネスレの事例を紹介しています。エコな包装材の利用、回収・再利用、ダンボール使用量を最小化するアルゴリズムなどの技術が導入されました。また、末端配送拠点の「菜鳥ステーション」では宅配用ダンボールの回収を始めていますが、さらに人気商品であるコーヒーメーカー「ネスプレッソ」の使用済みカプセルのリサイクル回収拠点という役割を果たすことにもなりました。

「あらゆる業界が物流テックを必要としている」と楊教授は強調しています。産業のデジタル化、改善にはさまざまな取り組みが必要ですが、物流やサプライチェーンは特に重要なパートであり、ここを改善できなければ産業のデジタル化が進まないためです。


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