中国コスメブランド花西子Florasis(フローラシス)、中国の伝統と最新Eコマース戦略の融合で若い消費者からの支持獲得

Florasisコスメを使ったメイクアップルック(写真提供:Florasis)

 中国のコスメブランド花西子Florasis(以下、Florasis)は、中国の伝統的な要素を取り入れた自社コスメを最新Eコマース戦略のもと販売することで、若い中国人消費者を惹きつけています。同社の年間流通取引総額(GMV)は、2017年の販売開始から2020年までの短期間に30億元(約550億円)超に急拡大しました。

 最近、中国の若者の間では、「国潮」と呼ばれる中国的な要素を取り入れた商品への関心が高まっています。Florasisもこのトレンドをうまく活用し、中国らしい伝統的な素材やデザインを自社製品に取り入れており、これがZ世代やミレニアル世代の消費者の間で大きなヒットとなっています。

 また、Florasisは主要なEコマース・フェスティバルに参加し、「口紅王子」と呼ばれ、中国で絶大な人気を誇る美容系インフルエンサーAustin Li(李佳琦)氏などのKOL(キーオピニオンリーダー)とコラボレーションをするなど、変化の速い中国消費者市場で競争力のある商品を提供するために、様々なお客様の声を反映させ続ける経営をしています。FlorasisのブランディングディレクターであるLin Zeng氏は、Alizilaのインタビューの中で、「私たちは、適切な時期に適切な判断を下したと思います」と述べています。

 投資銀行ゴールドマン・サックスによると、すでに世界最大規模を誇る中国の化粧品市場は2019年から倍増し、2025年までに市場規模1450億ドル(約17兆円)に達する見込みです。また、アリババグループのEコマースプラットフォーム天猫(Tmall)のデータによると、中国の化粧品ブランドは2020年に年間成長率78%を記録しており、化粧品ブランド全体の成長率23%を大きく上回っています。

ますます好調な中国の化粧品販売

 中国での化粧品売上は年々右肩上がりで伸びており、2012年から2020年の8年間で2倍以上に増加しました。

 投資銀行UBSの調査によると、中国のZ世代は人口の17%を占めるにすぎませんが、より積極的に新しいブランドの商品を試す傾向があり、美容製品に関しては他の年齢層と比べて最大2倍の金額を費やします。

増えている若い国潮応援者に訴求

 化粧品業界でC-beautyブランドと呼ばれている中国コスメブランドは、中国が経済大国となってから成人を迎えた、自国の伝統文化に興味を持つデジタルネイティブな若者から人気を集めています。市場調査会社ユーロモニターの美容ファッション業界コンサルタントKelly Tang氏は、「C-beautyブランドは、『国潮』トレンドを非常にうまく捉えており、中国消費者の美意識に訴えかける効果的なストーリー発信方法を理解しています」と述べています。

 中国の浙江省杭州市に本社を置くコスメブランドFlorasisも「国潮」トレンドをうまく活用した企業の一つです。同社は、地元産の花のエッセンスや薬用植物のエキスをカラーコスメに使用しており、ベストセラーの口紅は、2600年前の中国の牛飼いと織姫のラブストーリーからインスピレーションを得てデザインされたものです。

2600年前の中国のラブストーリーからインスピレーションを得たFlorasisの同心錠彫刻リップ(写真提供:Florasis)

 ただし、中国の消費者は伝統文化をテーマにしたデザインのみに惹かれて、購入しているわけではありません。Kelly Tang氏は、消費者はC-beauty企業の一貫したストーリーとイメージに魅了されていると指摘します。

 FlorasisのブランディングディレクターであるLin Zeng氏は、東洋美学にもとづく一貫したストーリーを訴求しています。「天然成分の使用から、重要な要素のバランスの考慮まで中国哲学に根ざした総合的にデザインされた商品を提供しています」と説明しています。

最新Eコマース戦略を駆使して市場参入

 商品は懐かしい見た目や雰囲気を醸し出していますが、C-beautyブランドは最先端のEコマース戦略・戦術を駆使しています。Florasisは、発売開始からたったの5カ月で天猫(Tmall)に旗艦店をオープンし、KOLを招いて初の大規模なマーケティングキャンペーンを展開しました。

 Eコマースのライブ配信中に7時間かけ400商品近くを試用した経験があることで知られているAustin Li氏は、ブランド立ち上げ当初からFlorasisの売上拡大に貢献しました。上海の調査会社China Skinnyの創設者であるMark Tanner氏は、「Austin Li氏は、Florasisが主要ブランドとなるきっかけを作った人物です」と述べています。2019年の天猫ダブルイレブン・グローバル・ショッピング・フェスティバル(以下天猫ダブルイレブン)にて、Florasisのセッティングパウダーを「空気より軽い」と表現した後、Florasisの天猫(Tmall)旗艦店にLi氏のフォロワーのアクセスが集中し、同商品は70万個以上の売り上げを記録しました。

Austin Li氏のライブ配信で紹介されたFlorasisのセッティングパウダー

 Austin Li氏はかつてインタビューの中で、自身がFlorasisの品質管理官のような役割を果たし、パウダーパフの色味が暗すぎる、セッティングパウダーの鏡が大きすぎるなどという厳しい指摘をしたり、定期的な商品アップデートを促したりしたこともあったと語っています。「Austin Li氏は、消費者ニーズに対する鋭い洞察力とカラーコスメの豊富な知識を持つため、Florasis商品の共同プロデュースにも参加してもらいました」とFlorasisのブランディングディレクターであるLin Zeng氏は述べています。

 Florasisのデジタル戦略・戦術は着実な成果を出しており、2019年から2021年の天猫ダブルイレブンでは、天猫(Tmall)カラーコスメブランド部門のトップ10に、広州のコスメブランドPerfect Diaryとともに常にランクインしています。また、2020年には年間流通取引総額(GMV)急増を受け、Florasisは天猫(Tmall)の新興ブランドトップ10にランクインしました。

 Lin Zeng氏は、「天猫(Tmall)は当社の年間流通取引総額(GMV)に大きく貢献する主要販売チャネルの1つであり、今後も主要販売チャネルの1つであり続けるでしょう」と述べています。

コスメ市場の熾烈な競争

 上記のようなEコマース戦略は、Florasisが熾烈な競争のなかで生き残るために不可欠です。「振り返ってみると、5年前に私たちが追いかけていたコスメブランドの半分以上が、今は存在していません。彼らは突然出てきて人気を博したかと思うと、すぐに消えていってしまうのです」とMark Tanner氏は述べています。

 2021年の天猫ダブルイレブン(11月1日~11月11日)では、天猫(Tmall)カラーコスメブランド部門において、Perfect DiaryとFlorasisが年間流通取引総額(GMV)でそれぞれ4位と5位となり、グローバルブランドに遅れをとっています。しかし、FlorasisのブランディングディレクターであるLin Zeng氏は、消費者と深い関係性を築くことで、Florasisの強い競争力を維持できると確信しています。

 Florasisのチームは、EコマースプラットフォームやSNSに投稿されるお客様の声を念入りにチェックしており、20万人以上の消費者とビューティー共同クリエイター契約を締結しています。

中国の少数民族ダイ族の文化にインスピレーションを受けたFlorasisの限定コレクション(写真提供:Florasis)

 約150名の共同クリエイターは、商品開発の各工程における製品サンプルを受け取り、Florasisファンが集まるオンラインコミュニティサイトに各サンプルに対する感想や意見を投稿します。Florasisは、それらを参考に成分やその組み合わせ、分量などを再調整し、商品の改善に貢献した共同クリエイターには特典を贈ります。

 Florasisは商品開発過程で、若い消費者がアイブロウペンシルには自然でふさっとした質感を好む一方、ワックスのような質感は好まないこと、アイブロウパウダーには自然な眉の仕上がりを期待する一方で、もっと形を整えやすくして欲しいと感じていることを発見しました。お客様の声を反映し、消費者の好みに合わせ続けるために4年間で7回のリニューアルを行ったアイブロウペンシルは、結果ベストセラーとなりました。

 「時間はかかりますが、消費者に寄り添うにはこれが一番の方法ですので、今まで徹底的にお客様の声を傾聴してきました」とLin Zeng氏は述べています。

 

 

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