予想外が連発?!越境ECのネットショップ開設で見えた中国消費者像 〜味の素が挑む中国B2C市場〜

味の素は世界でもっとも早く、うま味調味料を販売した企業として知られる。中国進出の歴史も古く、1914年には特約店を設置、1918年には上海出張所を開設している。すでに100年以上の歴史があり、そして今では中国料理に欠かせない調味料として定着した。その味の素が2019年8月、アリババグループの越境EC(電子商取引)プラットフォーム、Tモールグローバルに海外旗艦店をオープンした。なぜ、今、改めて越境ECで中国に進出しようとしているのか?

 

 


予想外の中国消費者像に驚き

「味の素は、長年中国で事業を行ってきましたが、近年まではB2B事業(企業間取引)が中心でした。他社に調味料やアミノ酸を基盤にした商品を販売するビジネスを展開してきたのですが、改めて消費者と向き合うB2C(企業対消費者間取引)事業にチャレンジすることを決めました。まずは中国の消費者が、どうしたら味の素の商品を受け入れてくれるかを知る必要があります。そこで低コストではじめられる越境ECに取り組むことになり、Tモールグローバルに海外旗艦店を開設しました」

味の素食品事業部 生活者解析・事業創造部ECグループの中塚昌典氏は、このように旗艦店開設の狙いを話した。B2B事業で長らく中国とかかわっていたものの、実際に消費者向けの販売を始めて見ると、思ってもみないことの連続だったという。

「日本での訴求ポイントと中国の消費者が気になるポイントはまったく別ですね。日本と中国とでは消費者の訴求ポイントが全く異なりますね。今はまだ手探りの状況です。当社の「やさしお」という商品を中国消費者に販売しているソーシャルバイヤー(日本や海外で購入した商品を、ソーシャルメディアなどを通じて中国消費者に販売する職業)がどのようにアピールしているかを見てびっくりしました。

カリウムを配合することで塩味はそのままに塩分を50%カットした商品で、日本では高齢者がメインターゲットです。ところがそのソーシャルバイヤーは乳幼児向けの商品として紹介していたのです。塩分取り過ぎは乳幼児の健康にとってはよくないのですが、味がないと赤ちゃんが食べたがらない。そんな時にやさしおが便利なんだ、と」

味の素海外旗艦店ではこれにヒントを得て、「赤ちゃん塩」とのキャッチコピーで「やさしお」を販売している。

他にもサプライズはあったという。中国ではフィットネスブームが高まり、スポーツジムやトレーニングアプリといったサービスが急成長しているが、意外にも味の素の看板商品の一つであるサプリメント「アミノバイタル」は消費者への訴求においてはまだ模索しているという。

「アミノバイタルはアスリートや記録への意識が高いアマチュアなどパフォーマンスを向上させたい方をターゲットにしたサプリメントです。中国でフィットネスブームは起きているのですが、記録を伸ばしたいからサプリメントを摂取しようというニーズはまだ少ないようで。むしろダイエットのニーズにあわせた「アミノバイタル・カプシ」のほうがよく売れています。これも驚きでした」と中塚氏。新型コロナウイルスの流行に伴い、世界的に健康が注目を集める中、今後、アミノ酸サプリメントへの理解が広がるのではないかとも期待している。

中国市場は巨大だが、どんな商品でも簡単に売れるわけではない。潜在的なニーズを見つけ、認知を高めていくというマーケティングの王道から逃れることはできない。Tモールグローバルに出店して1年あまり。中国市場に対する知見や、広告施策に対する理解も増えてきたと、中塚氏は手応えを語る。

「日本と同様、忙しい朝に食事を簡便に済ませたいというニーズも中国にはあるはずです。ライブコマース(動画配信とネットショッピングを融合させた販売手法)の大物配信者である李佳琦さんに、インスタントコーンスープの「北海道ポタージュ」を扱ってもらったところ、たった数分のライブコマースで100万元(約1600万円)もの売上を達成しました。こうした商品を理解してもらえる取り組みを続けていきます」(中塚氏)

 

変化する中国コーヒー市場、そのニーズをつかむために

味の素海外旗艦店は傘下のコーヒーブランド「AGF」、食用油ブランドのJ-オイルミルズも一緒に出展している。特に好調なのがAGFのコーヒーだという。

AGF海外事業開発部の部長 城戸宏之氏によると、中国のコーヒー豆消費量は年20万トンと日本の半分程度で、人口1人当たりの消費量で考えると、まだまだコーヒーが普及しているとは言いがたい。全体で見れば、中国はやはり「お茶の国」であり、コーヒーの存在感は薄い。しかし、地域別で見ると状況は一変する。大都市のオフィス街ではコーヒーショップが次々とオープンするなど、コーヒーを楽しむ人が増えている。

販売されているコーヒーもインスタントコーヒー、クリームパウダーと砂糖をセットにした「スリーインワン」と呼ばれる商品が主流だが、本格的なコーヒーを求める流れも生まれているという。

「TモールグローバルにAGFのコーヒー商品を出品したことで、消費者がどんな検索ワードで私たちのショップにたどりついたかがわかるようになりました。無糖という検索ワードでたどり着く方が多いんですね。本格的なブラックコーヒーを求めている方が増えていることがわかります。

ECにチャレンジしたことで、消費者像が具体的にわかるようになったことにとても手応えを感じています。たとえばフレッシュコーヒーとインスタントコーヒーの購入者像です。インスタントを飲んできた中高年はその慣行が続き、若い世代はフレッシュコーヒーと予想していたのですが、データを見るとブラックのインスタントコーヒーが若い世代によく売れているのです。いわゆるZ世代(1990年代中盤以降に生まれた若い世代)はリーズナブルな価格からインスタントコーヒーを選んでいるのではないかと予測しています」と城戸部長。AGFのインスタントコーヒーの中でも、フリーズドライ製法で作ったものは香りが高く、コスパ良くブラックコーヒーを楽しみたい消費者に親しまれていると話している。

「もう一つ、中国市場でAGFの売れ筋となっているのがポーションコーヒーです」とAGF海外事業開発部の主任 王平氏は明かした。ポーションコーヒーとは、プラ容器で個包装された濃縮コーヒー飲料で、水や牛乳で薄めて飲むという商品だ。今年5月にTモールグローバルで販売を開始したが、中国ではなじみのない商品形態なだけにどれだけ売れるのかさっぱり検討もつかなかったと王主任は振り返る。そんな時、力強く背中を押してくれたのがアリババグループの嗜好飲料カテゴリー担当者だった。海外輸入ポーションコーヒー商品の売れ行きが好調だったというデータもあり、また自分の経験からも必ずや売れるはずと太鼓判を押してくれたという。その言葉を信じ強気の製造販売計画を立てたところ、出品の1~2カ月後から人気商品として売れはじめたという。膨大なデータとノウハウを持つアリババのサポートは心強いと王主任は言う。

味の素は今年で2回目のダブルイレブンを迎えた。また、今年6月にはダブルイレブンに並ぶ巨大セール「618」があり、前月比2倍もの売上を達成した。ダブルイレブンの売上は目標を大幅に達成して、過去最高でした。

※1元=16円のレートで換算

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