「売る」よりも「正しく伝える」ために、第一三共ヘルスケアが越境ECで医薬品を売る理由
第一三共ヘルスケア株式会社(以下:第一三共ヘルスケア)は2020年8月末、アリババグループの越境EC(電子商取引)プラットフォーム「Tモールグローバル」で、第一三共薬品海外旗艦店をオープンした。第一三共グループでは、ボディケア及びスキンケアブランドのミノン海外旗艦店、そしてハミガキなどのオーラルケアを展開する第一三共海外旗艦店に続き、3店舗目のTモールグローバル旗艦店となった。
「第一三共薬品海外旗艦店では、OTC医薬品*1を展開しています。医薬品の輸出ビジネスでは認証に巨額の投資が必要となりますが、越境ECではこのコストを削減し、スモールスタートで市場ニーズを探ることができます。」
第一三共ヘルスケアの国際部グローバルマーケティングを担当されている鹿島結さんは、TモールグローバルでのOTC医薬品販売のメリットを説明した。健康にかかわる医薬品を輸出販売するためには本来、複雑な認証手続きが必要で、時間も費用もかかる。それだけのコストを回収できるとわかっていればいいが、どの製品にニーズがあるのか、どれだけ売れるのかは実際に市場に投入してみなければ、正確にはわからない。多額の輸出コストは決して無視できる金額ではない。
そこで、この悩みを解決する手段として注目されているのが越境ECモデルだ。中国ではもともと代行業者を使った個人輸入が盛んだったが、2016年に「保税区モデル」と呼ばれる新制度が導入された。中国国内にありながらも税制上では国外と同等(=通関の前)の扱いとなる地域に在庫を持ち、そこからTモールグローバルやコアラなどの越境ECプラットフォームを通じて中国の消費者に販売・発送する方式だ。一般貿易よりも税金が安く、そしてOTC医薬品や化粧品などの認証手続きが簡素化されている点が特長だ。低コストで機動的に中国市場進出を狙いたいという海外企業が数多く参入している。
一般の中国国内ECと比べると、保税区の数は少ないため、購入から手元に届くまでの時間が長くなってしまうことが多いが、「第一三共ヘルスケアは香港の保税区で商品を保管していますので、中国全土には最短1週間以内で商品が届きます」と鹿島さんは明かす。
Tモールグローバルを通じて中国市場に参入することで、中国消費者の反応が直接伝わるようになった。実は旗艦店開設前にその役割を担っていたのが、日本の小売企業だ。中国人観光客によるインバウンド消費で、第一三共ヘルスケアのOTC医薬品も人気を集め、そこからどの商品が売れるのか知見を得ていたという。「成長市場である中国市場はさらに投資すべき」と経営から現場までが満場一致で越境ECというアウトバウンドに取り組むことを決めた。
「インバウンドとアウトバウンドの双方に備え、同じ組織が管轄するオールバウンド戦略が重要だと考えています。今年4月に組織変更を行い、このオールバウンド戦略を実施できる環境を整えました。」(鹿島さん)
海外旗艦店は正しい情報を伝えるためのチャネル
「タオバオグローバルで一番売れている商品は、しみやそばかすを緩和する薬“トランシーノ ホワイトCクリア”です。2014年に発売した薬なんですが、口コミで話題となり、インバウンド消費者にとても人気のある商品となりました。中国では“第一三共美白丸”と呼ばれ、親しまれています」と鹿島さんは話し、今後は同商品に続く次の売れ筋商品を育てたいと意気込みを示した。
旗艦店ではさまざまなOTC医薬品を出品しているが、特に期待しているのは第一三共胃腸薬プラスとパンラクミン錠だという。
「OTC医薬品は家庭の文化なんです。昔は常備薬なんていう言い方もありましたが、どんな薬を常備しておくか、薬に何を期待しているかは家庭の文化によって決まります。ですから、中国出身の社員に子どもの頃にどんな薬を飲んだのかを根掘り葉掘り聞きました。そうすると、お腹を下した時などによく薬を飲んだという話が返ってきました。中国料理は油が多いこともありますし、悩みにぴったり合う薬ではないかと考えています。特に第一三共胃腸薬プラスは当社の名前を冠した薬でもありますし、ぜひ認知度をあげていきたいですね。」(鹿島さん)
認知度をあげるためには天猫ダブルイレブンは絶好の機会だ。大々的な割引やお祭りムードもあいまって、多くの消費者がネットショップをチェックするため、自社のショップに引き寄せる機会となる。そのために第一三共ヘルスケアが取り組むのは、今中国でもっともホットな販売手法であるライブコマースだ。ネット動画の生配信とネットショッピングが一体化したサービスだが、中国消費者に絶大な影響力を持っているプロのライブ配信者の李佳琦、薇娅はいずれも1億人を超える視聴者を集め、一晩でそれぞれ30億元(約450億円)以上の売上を叩き出したという。
「彼らのようなSS級KOLによるライブコマースの影響は大きいです。大量の消費者を私たちのオンライン旗艦店に送客していただけます」と鹿島さん。Tモールグローバルの自社旗艦店に来てもらえれば、自分たちの薬についての正しい情報を伝えられると期待する。
「適正な医薬品を適正に服用してもらうことが何よりも大事ですし、その薬の効果を実感してもらうことにもつながります。インバウンド、他のネットショップや別の販売チャネルもありますが、私たちの公式な直営店で、正確な情報を直接お伝えできるというメリットがなにより大きいと考えています。」
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