Z世代創業者たちの“文化祭”が起業家エンパワメントの場に進化、7年目のメーカーフェスティバル
アイデア豊富なZ世代、その創造力をいかにビジネスとして成功させるのか。中国EC(電子商取引)大手アリババグループが主催する大型イベント「メーカーフェスティバル2022」(造物節2022)が8月24日から9月1日にかけて、広東省広州市及びオンラインで開催されている。
メーカーフェスティバルは2016年から毎年開催されている大型イベントだ。企業が新製品を売り込む、一般的な展示会とは異なり、趣味の延長線上のような新人起業家たちのブースも多い。文化祭ノリとでも言うべきか、ビジネスというよりは楽しく面白いアイデアの発表会という印象だ。未来のビジネスの種を見つける場所、若者たちの創意工夫を引き出す舞台という位置づけだ。
もっとも、たんに楽しいだけではない。ユニークなアイデアと勢いという若者の力をビジネスへと成長させる、つまり、カジュアルな起業を後押しすることが狙いだ。いやいや、起業というものはもっと真面目なものと思われる方もいるだろうが、中国と日本ではカルチャーが異なる。新卒一括採用の雇用慣行がある日本では大学卒業時の就職は人生で唯一無二のチャンス、その機会を逃すのは勇気がいる。一方で、そうした慣行がない中国では起業という選択肢はもっと気楽に選べるという違いがある。
つまり、大学で最先端サイエンスを身につけたエリートが取り組む起業だけではない。「ペット用のかわいい服を欲しい人多いよね?」「趣味でコスプレをやっていたんだけど、頼まれて人の服を作る機会も増えてきたからビジネスにしてみた」といった、ちょっとしたアイデアと身近なニーズの発見から起業に踏み切る人もいるわけだ。
こうしたカジュアル起業は中国政府も奨励している。李克強首相が2014年に提唱した起業奨励政策が「大衆創業、万衆創新」(大衆の創業、万民のイノベーション)だが、エリートだけではなく、大衆による起業をも奨励している点がユニークだ。
こうしたカジュアル起業の舞台が、アリババグループのマーケットプレイス「タオバオ」(淘宝)。出店手数料が無料で、気軽に出店できる参入ハードルの低さが魅力となってきた。
アリババグループの中国デジタルコマース事業のプレジデントを務める戴珊(ダイ・シャン)が8月24日、メーカーフェスティバル2022のキックオフイベントで明かしたところによると、00後(2000年以降に生まれた世代)のタオバオ・ショップオーナーは100万人を超えるという。00後で一番若い2000年生まれでも現在22歳という若さにもかかわらず、これほど多くの起業家がいることには驚かされる。
また、18歳から30歳のショップオーナーは300万人を超えており、この世代の中国人は80人に1人はタオバオでの起業経験がある計算になるという。
起業家たちの新事業をインキュベーション
7回目の開催となった今年のメーカーフェスティバルは、例年とややおもむきが異なる。若者たちの出展に加え、大企業経営者やベンチャーキャピタル関係者など経営のプロによる講演会、若者起業家同士の交流の場、資金獲得や販路拡大のための具体的なノウハウを伝授する講座など、起業支援イベントという色合いが強化された。
タオバオ及びTモールのマーケティング本部長を担当する韓雯斐(ハン・ウンフェイ)は、「今年のメーカーフェスティバルですが、最大の変化はクリエイティブな成果の展示会から、起業家交流のイベントへとアップグレードした点にあります。(起業に関する)より多くのリソースを集めたいと希望しています」と話している。
今年のメーカーフェスティバルは、楽しいアイデアを喚起させる舞台からさらに一歩進んで、ビジネスを育み・進化させるためのエンパワメントの場へと脱皮することを目指したわけだ。この言葉通り、メーカーフェスティバルの共催パートナーには、中国工業情報化部や広東省商務庁といった政府機関、清華大学や北京大学などの大学、IDGキャピタルやGGVキャピタルなどの投資機関と、昨年まではいなかった顔ぶれが加わった。
マーケットプレイスを提供するアリババグループの他に、政府、大学、そしてベンチャーキャピタルという起業に関するエコシステムを構成するプレイヤーがそろったことで、若き起業家たちを全方位的に支援する体制が整えられている。
イベントでは、先輩起業家が心構えを伝授する講演会が注目を集めた。24日のキックオフイベントではアリババグループ共同創業者の一人である戴珊が創業の経験を語ったほか、EVメーカー「XPENG(小鵬)」共同創業者の夏珩(シャー・ハン)総裁も登壇。「300社以上の新興EVメーカーがひしめくなか、生き残るためにはともかく、他社よりも早く車を完成させるしかなかった」と創業初期を振り返り、頭でっかちの計画ではなく手を動かす重要性を説いた。
隙間ニーズの発見を起業に直結
アリババグループのマーケットプレイスの進化、それを象徴するのが小カテゴリの増加だ。新たな売れ筋商品が生み出されるたびに小カテゴリは追加されていく。タオバオ・Tモールでは過去2年で2100以上もの小カテゴリが追加された。この数字からもアリババグループが貪欲に新たな売れ筋商品の発見に務めていることがうかがえる。
漢服(中国漢民族の伝統衣装をモチーフにしたアパレル)、JK服(日本のセーラー服にインスパイアされたアパレル)、各種のペット用品など新たなジャンルを築いた商品は、一足先にメーカーフェスティバルでフィーチャーされていたものも多い。では今年のメーカーフェスティバルにもそうした注目ジャンルはあるのだろうか?
フライングディスクなど中国ではまだ珍しいアウトドアスポーツ、ノンアルコールビールなど健康食品飲料と並んでフィーチャーされているのがキャンプ用品だ。
「今年はキャンプブームが来ています。実はコロナ前にもキャンプ用品は前年比500%以上の伸びが続く急成長市場だったのですが、今年のブームで一部愛好家の趣味というより、誰もが楽しむホビーへとステップアップした感があります」
タオバオ・Tモール アウトドアスポーツ用品・カテゴリー運営担当の王珊珊(ワン・サンサン)は言う。キャンプブームは中国ではまだ始まったばかりかもしれないが、海外には長い歴史があり、関連グッズを出すメーカーも多い。中国の青年起業家が食い込み余地はあるのだろうか。
「海外のキャンプ人気は中国に影響していますし、海外ブランドの製品も人気です。例えば日本のスノーピークは中国にも多くのファンがいます。それでも、人とは違う個性を表現できるアイテムが欲しいという声など、中国の消費者ニーズに寄り添った面白いブランドが登場しています」(王珊珊)
そうしたブランドの一つがVidalido(タオバオ店舗名:紅旗媽媽)。創業者の鄭菲妮(ジョン・フェイニー)は息子が生まれたのをきっかけに仕事を辞めて主婦となったが、やはり仕事もしたいと、趣味のキャンプに関するネットショップを立ち上げた。今ではタオバオのキャンプ用品カテゴリでトップ5に入る人気店になっている。細かく使い方を教えてくれる動画教材を大量にそろえるなど、実用的な気配りコンテンツが急成長の秘密なのだとか。
メーカーフェスティバルに出店されたのは、テントからテーブル、ストーブ、イスなど、すべてブラックのキャンプ用品55点セットだ。ブラックで統一されたキャンプ用品は誰もが驚く意外性があり、SNS映えするデザイン性が魅力だという。
「若いキャンプ愛好家たちにとっては、SNS映えする写真が撮れるかどうかが決定的に重要なので、インパクトがあるデザインは不可欠です」(王珊珊)
もう一つ、王珊珊が紹介してくれたショップが什良商店(シーリャンシャンディエン)。メーカーフェスティバルに出展したのは超大型のロールトップテーブルだ。天板がスノコのような形状で丸めることができるため、大きなテーブルでも持ち運びしやすいように小さく収納できる。
とはいえ、一般のキャンプ用品では机のサイズはなるべく小さくするのが常識だが、什良商店はなんと20人掛けという超大型テーブルを作っている。今、中国ではボードゲームも人気。キャンプ先でみんなで一つのテーブルを囲んで一緒にゲームや食事を楽しむニーズがあるはず、との読みで作られた商品だ。
中国式SNS映えを目指した黒一色セット、そしてキャンプ先でのボードゲーム。なるほど、確かにこうしたニーズはなかなか気づきづらそうだ。他にも、犬猫用テントなどペットと一緒にキャンプするためのグッズなど、おもしろいアイテムが出展されているという。
王珊珊による紹介で、メーカーフェスティバルのポジションが改めてよく理解できた。ちょっとしたニーズ、アイデアから若者が起業にチャレンジしていく。そうした取り組みをサポートし成功確率を上げていく。それがメーカーフェスティバル、そしてアリババのマーケットプレイスの目指す世界なのだろう。
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