ネットショップで稼ぐ、デジタル技術が変えた障がい者の生き方

解説:

中国EC(電子商取引)大手のアリババグループは、複数のマーケットプレイスを運営している。その1つであるタオバオは、誰でも簡単にネットショップを開設できる、参入ハードルの低さが売りだ。一般企業で働くことが難しい人でも、ネットショップのオーナーとして、努力と創意工夫を積み重ねれば、生計を立てられる。デジタル技術によって人々の生活に新たな選択肢を与えている。

 

国連と世界保健機関(WHO)の統計によると、世界70億人超のうち、約15%にあたる10億人超がなんらかの障がいを持っています。うち1億人超は子どもです。高齢化の進展やさまざまな非感染性疾患の影響から、この数はさらに増加すると予想されています。障がい者が社会生活を送るハードルがなくなれば、障がい者のみならず社会全体にとってのプラスになると、国連は指摘しています。

デジタル技術の発展によって、参入障壁が低く、さまざまな働き方が可能なEC(電子商取引)プラットフォームが誕生しました。障がい者にとっては社会生活を送るための新たな選択肢が増えたことになります。ネットショップを通じて働くことは消費者との交流を意味し、障がい者が社会生活を送る重要な手段なのです。

アリババグループのC2C マーケットプレイス「タオバオ(淘宝)」では、多くの障がい者がオーナーとして起業しています。彼らはタオバオでの仕事を経て、何を得たのでしょうか。3人の障がい者オーナーをご紹介します。

 

自宅の入口からライブコマースを配信する孫さん

1日8時間のライブコマースで人気配信者に

孫亜輝(スン・ヤーフイ、27歳)は建築現場で働く作業員でした。仕事中に高圧電線に接触して両腕を失い、足の感覚もなくなってしまいました。作業員としては働けなくなってしまった孫さんですが、タオバオショップのオーナーとして起業しました。手足は動かなくても話すことはできると、ライブコマース(動画配信とネットショッピングを融合させた販売方法)で、旬の農作物を売り込んでいるのです。

その仕事ぶりは手慣れたもの。前腕から先がない、短い腕をうまくつかってスマートフォンを操作します。また、顧客からテキストメッセージで問い合わせが来ることもありますが、指の代わりに箸を口にくわえてキーボードを叩き、返信メッセージを書いています。

この1年、孫さんは毎日8時間にわたり配信を続けました。最初はほとんどお客さんがいませんでしたが、今では1万人以上のフォロワーがいる人気配信者です。カメラに顔を向けられないほどシャイだったという孫さんですが、今やジョークを交えたセールストークでファンを集めています。

ライブコマースで成功を収めた孫さんですが、その夢には続きがあります。住んでいる農村の特産品を販売する農産物合作社(日本の農業協同組合にあたる、中国の農民や労働者が連合して組織した経済組織)を設立し、村全体を豊かにしていくこと。これが新たな目標です。

 

黄さん(左)は創業から13年以上を経た今も現場に立ち、従業員と一緒に商品のパッケージングなどの作業を行っています

自分の仕事があれば生活に希望が持てる

黄勇(ホワン・ヨン、41歳)さんは5歳の時に血友病と診断されました。血友病の影響で両ひざの関節が変形し、今では自力で歩くことができません。

幼いころから病気に悩まされてきた黄さんですが、転機となったのはあるテレビ番組でした。障がい者がネットショップを開設するという内容でしたが、黄さんは自分もチャレンジしようと考えたのです。

黄さんは2007年にタオバオでネットショップをオープンしました。他人の何倍もの努力を積み重ねることで、素人からECのプロに変わりました。人気ショップとして売上を伸ばし、借金をすべて返済したばかりか、血友病患者や同郷の障がい者のためにEC運営のワークショップやリモート授業を開催する活動にも取り組んでいます。その参加者はのべ1万人を超えています。

「障がい者が仕事を持てるようにしてあげたいのです。そうすれば、生活に希望が持てますから。」黄さんはこのように慈善活動の目的を話しています。

 

手話を教える杜さん(中央、黒いシャツの女性)

手話で「恋愛告白」を

杜銀玲(ト・インリン)さんは小さな農村の出身です。3歳のころに聴覚を失いましたが、その後の訓練を経て基本的な発話はできるようになりました。それでもほとんどのコミュニケーションは手話を通じて行っています。

手話の教師になった杜さんですが、2015年に4人の学生と一緒にタオバオで、手話通訳店を開きます。障がい者のニーズが明らかになるにつれ、手話の重要性も高まり、杜さんのお店にもさまざまな依頼が舞い込みました。「あなたの瞳には星の大海が隠されています。」という恋の告白を、手話に翻訳してほしいという依頼まであったのだとか。

今では「告白翻訳」は杜さんのお店の看板メニューの1つです。今年の「天猫ダブルイレブン・ショッピングフェスティバル」(毎年11月11日に開催されるセール)では、「告白セットプラン」も販売されました。この時に予約購入しておくと、バレンタインデーや誕生日の時に翻訳サービスを使えるというものです。

タオバオショップは杜さんに何をもたらしたのでしょうか?彼女は次のように話しています。

「私と学生にとって、タオバオは聴覚障がい者と健常者をつなぐ橋です。手話教師に加えて、タオバオショップオーナーという新たな立場を持てたことは私にとって重要です。手話教師、オーナー、障がい者の権利のアンバサダーという3つの立場から、今後も聴覚障がい者がよりよい生活を送れるよう、取り組んでいきたいです。」

 

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