ラストワンマイル配送の自動化において、ロボットがeコマースにもたらす革命とは?


タワーマンションのエレベーターにロボットが乗り込んできたり、玄関のドアをロボットがノックして、1時間前にネットで注文した商品を届けてくれることを想像してみてください。それが中国のeコマースの将来です。

アリババグループは、”ロボット配送員”を導入することで、世界最大規模の消費市場である中国で急増するオンラインショッピングの需要を、スピーディで信頼性が高く、比較的低いコストで満たすことができると言及しています。この目標の実現に向けて大きく踏み出すため、アリババは今年、中国国内の大学の構内や都市部のコミュニティに1,000台の配送ロボットを投入しました。中国語で小さなロバを意味する「小蛮驢(シャオマンリュ)」と名付けられたロボットは、1度に約50個の荷物を運び、1回の充電最大およそ100キロ走行し、1日最大500個を配達することができます。

配送ロボットは配送業者の引き渡し場所で荷物をピックアップし、歩道や自転車専用通路を通って、お客様のビルへと向かいます。確かに、ロボットはまだ階段を上ったりはできませんが、テクノロジーは着実に進歩しています。

将来は、工場内のフォークリフトが徐々にロボットに置き換わり、病院の医療廃棄物の処理や、空港での荷物の運搬もロボットが行うようになるかもしれません。
この配送ロボットには、障害物を安全に避けながら低速運行の小道や袋小路を走行する方法を「学習」させ、大学の構内や住宅地などにてサービスを提供していく考えです。こうした初期モデルで収集したインサイトをもとに、アリババグループの技術研究開発機構であるアリババDAMOアカデミー(達摩院)が分析を行い、一般道でも安全に操縦できるよう、ロボットをアップグレードしていく予定です。

中国・杭州にあるDAMOアカデミー・自律走行ラボの責任者である王剛氏は次のようにコメントしています。「この先3年から5年の内に、自律走行のスピードアップを図り、さらに長距離の配送が行えるようにしたいと考えています。」

eコマースを常に悩ませてきたのが、ラストワンマイルの配送でした。コストも時間もかかる上、地図に載っていない場合がほとんどです。配送員はタワーマンションの1室を探したり、広大な住宅地の中で道に迷ってしまったりなど、作り手から買い手への最後の行程が配送員を混乱させる可能性があります。

アリババのロボットなら、寄り道したり一服したりすることなく目的地へ辿り着けます。アリババ独自のアルゴリズムで、届け先までの最速ルートを決定します。

ロボットは歩行者や車両が意図する5~10秒先の動きを予測して、衝突を未然に防ぎ、安全に走行することができます。走行試験では、「小蛮驢」の自動走行アルゴリズムは、99.9999%の確率で人の介入なしに機能することができました。業界の専門家にとって、これはレベル0~5に区分される自動運転技術のうち、レベル4の高度運転自動化に相当するレベルです。

ロボットや自動運転車が交通量の多い公道を安全に走行できるようにするためには、膨大な交通データが必要となるため、自動走行の専門家にとっては、自動運転区分の最高レベルであるレベル5は、遠い理想の世界のように思えます。

eコマースのラストマイル問題の解消にはレベル4で十分です。それよりも重要なのは、ロボットの測位技術の進化によって、GPS信号が弱かったり届かなかったりしてもロボットを走行できるようになり、中国国内の大都市以外でも信頼できる配送が行えるようになったことです。

中国のeコマース市場は世界最大規模であり、その成長に伴って顧客の注文に対応するための物流も急速に発展してきました。新型コロナウイルスの流行もオフラインからオンラインへの消費の移行を加速する要因となり、非接触の配達サービスに対する消費者ニーズが高まっています。中国国家郵政局によると、昨年1年間に中国本土の宅配業者が扱った荷物の数は8,300億個を突破し、2013年から9倍に増加しています。

一方、世界で最も急速に高齢化が進む中国では、その体力低下により、こうした状況に対応できる宅配業者は減少しています。世界保健機関(WHO)は2040年には、中国で60歳以上の高齢者の割合が28%に達すると予測しています。

「これほどの量の荷物を消費者に配達できるだけの労働力はありません。自動化技術がなければ不可能です。『小蛮驢』が非常に重要なのもそのためです。」と、アリババの自律走行ロボットの開発の主要人物であるDAMOアカデミーの王氏は述べています。学者として10年以上に渡って人工知能(AI)の研究を行ってきた王氏は現在、そうした理論を実践したいと考えており、次のように述べています。

「私は、学術的というよりも、実用的で社会的に大きなインパクトをもたらすAI製品を開発したいと思っています。アリババのDAMOアカデミーの目的は、使える製品を開発することであり、まさに私のモチベーションと一致しています。」

 

アリババDAMOアカデミー(達摩院)の王氏は、アリババの自動走行搬送ロボット導入の最前線にいる

消費者がより短時間で、より柔軟な配送スケジュールを求めるようになり、eコマース企業にとっては自社の物流ネットワークの再構築が急務となっています。中国・杭州に本部を置くアリババグループでは、中国国内のユーザーに1時間配達、半日配達、翌日配達などのサービスを提供しています。

「今や消費者の期待値はますます高まり、荷物の受け取りに遠くまで歩いて行かなくても済むよう、自分の家まで届けてほしいと思っています。」と王氏は指摘しています。

DAMOアカデミーはアリババの物流部門である菜鳥(ツァイニャオ)と緊密に連携して、物流業界に自律走行搬送ロボット(AMR)の導入を進めています。

世界で最も多くの荷物を取り扱っているのは、依然としてFedExやUPSといった配送業者です。小売企業の中にはドローン配送などの先進ソリューションの導入を模索する企業も出始めていますが、ドローンの場合は高いレベルの規制に対応する必要があるため、実際に流通している数はそれほど多くはありません。これに対して、大量導入という点では配送ロボットの方が大いに期待できると言えます。

自律走行の分野が画期的に進化するかどうかは、長年、研究を続けた技術者が1人か2人、そこからインスピレーションを得て何かをひらめくかどうかにかかっていると言えます。自動運転に関しては、多くの企業が特に乗客の運搬について、依然としてプロトタイプの開発段階にあります。

アリババはすでに稼働中のロボットから得たインサイトを着実に積み重ねて、より成熟した、実際に役に立つアルゴリズムの開発可能性を高めていくというアプローチを取っています。研究室のエンジニアに依存しているわけではありません。

王氏は、いくつかの企業がプロトタイプを操縦するために必要としている高額な高解像度センサーを不要にできるほど、アリババのアルゴリズムは強力だと考えており、次のように述べています。

「私たちはアルゴリズムに一層力を入れることで、低コストで大量にロボットを導入できるようになります。」

 

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