国際オリンピック委員会の最高技術責任者、イラリオ・コルナ氏へのインタビュー

概要

北京2022パラリンピック冬季競技大会は、先月の北京冬季オリンピックと共に数日前に閉会したが、イベント全体のコンテンツ、選手のパフォーマンスの統計、スタッフのプラットフォームすべての更なるデジタル化が進んだ。国際オリンピック委員会(IOCの最高技術責任者(CTO)であるイラリオ・コルナ氏はインタビューの中で、オリンピックにおけるテクノロジーと持続可能な発展について言及し、「北京冬季オリンピックは、歴史上もっとも多くの没入型体験を提供する冬季オリンピックとなりました」と述べた。

北京冬季オリンピック放送機構(以下 OBS)

北京2022パラリンピック冬季競技大会は、3月13日に閉幕しました。イベント全体のコンテンツ、選手のパフォーマンスの統計、スタッフのプラットフォームのすべての更なるデジタル化が進みました。その中で、オリンピックの主催者であるIOC(国際オリンピック委員会、以下「IOC」)は、クラウドテクノロジーを使用して一連のコンテンツを公開し、ファンがリモートで交流できるようにサポートしました。

IOCの最高技術責任者(CTO)であるイラリオ・コルナ(Ilario Corna)氏は、冬季オリンピックの初期からアリババグループ等のパートナーと協力し、この世界最大規模のスポーツイベントの安定した運営を実現し、「北京冬季オリンピックは、歴史上もっとも多くの没入型体験を提供する冬季オリンピックとなりました」と述べています。

いかにして持続可能性をスポーツイベントに取り込んでいくかが、IOCの目標の一つとなっています。コルナ氏は優れた拡張性と持続性を有するクラウドコンピューティングテクノロジーがキーポイントで、長期的に考えた場合、クラウド戦略を推し進めていくことでリターンが得られると考えています。コルナ氏は「北京冬季オリンピックでは、現在のテクノロジーがもたらした成果を数多く見ることができます」とも述べています。

コルナ氏は2020年にIOCに加わり、新型コロナが流行している中で東京2020夏オリンピックと北京2022冬オリンピックの準備をサポートしました。コルナ氏は、北京オリンピックにおいて、優れたテクノロジーがコロナ禍におけるオリンピックの成功を陰で支えたのみならず、持続可能なクラウドベースのITアーキテクチャの確立に成功したことが重要であると考えています。コルナ氏は、「今、私たちはテクノロジーの構築からプラットフォームの構築へと移行中であり、これはクラウドテクノロジーを活用して将来開催されるすべてのオリンピックの体験を向上させることが可能なプラットフォームです。」と述べています。

以下はコルナ氏へのインタビューの内容の要約です。わかりやすくするために、内容を編集しています。

 

IOCの最高技術責任者(CTO) イラリオ・コルナ(Ilario Corna)氏

Q:北京2022冬オリンピックとパラリンピックが閉会しましたが、多様性と双方向性についてどのように評価していますか?

コルナ氏:北京冬オリンピックは、歴史上もっとも多くの没入型体験を提供する冬季オリンピックとなりました。情報発信を強化し、世界中の視聴者にこれまでにない体験を提供することに取り組みました。例えば、オリンピック放送サービス(以下OBS)は初めて8Kバーチャル・リアリティ技術による冬季オリンピックのビデオ撮影、制作、リリースをしました。

私が子どもの頃から、オリンピックは、常にテクノロジーの進歩を遂げてきました。昨今のテクノロジーの急速なペースに、私たちもついていく必要があります。北京冬季オリンピックでは、現在のテクノロジーがもたらした成果を見ることができます。

 


Q:北京冬季オリンピックの期間中、アリババは革新的な「Cloud ME」クラウドテクノロジーを発表し、コロナ禍における地理的障壁を克服し、ユーザー達がまるで実際に会っているような体験をさせました。このホログラフィックプロジェクション・テクノロジーに関するお考えをきかせていただけますか?

コルナ氏:アリババグループの会長兼最高経営責任者(CEO)のダニエル・チャン氏とIOCのトーマス・バッハ(Thomas Bach)会長がクラウド上で会見し、クラウドが仮想現実と拡張現実技術をどのようにサポートするかを示しました。これは、誰もが目を見張る瞬間だったと思います。

実際、ホログラフィックプロジェクション・テクノロジーは後発です。私はアリババクラウド・インテリジェンスのグローバル・ビジネス担当ゼネラルマネージャーのセリーナ・ユアン(Selina Yuan) とスタッフがどのようにしてバブル内に入るかを話し合いました(オリンピックの開催地を北京の他の地区から分離するバブル方式のこと)。私たちが計画を練るための時間は1カ月しかなく、構想が固まるのに時間を要したため、このテクノロジーをオリンピック全体で発揮することができませんでした。しかし、このテクノロジーは大きな可能性を有しています。私たちはクラウド・アプリケーションを拡張することで、いかにして将来、よりリアルタイムでリアリティのあるプロジェクション・テクノロジーをサポートしていけるかについて話し合いを進めています。

 


Q:北京冬季オリンピックは、これまでのオリンピックや冬季オリンピックと比べて、クラウドサービスをどのように広く活用したのでしょうか?

コルナ氏:中国全土に普及する5Gネットワークにより、クラウドコンピューティングの採用を加速させることに成功しました。クラウドコンピューティングにより低遅延と高効率を実現し、以前のイベントよりも多くの映像リソースを送信することが可能となりました。

当社のウェブサイトは、アリババクラウドのサービス上で構築されており、それにより多くのデジタル・オーディエンスにリーチすることができます。2020年の東京オリンピックを例にすると、延べ1.75億人以上がオリンピックの公式ウェブサイトとアプリケーションにアクセスしました。

Q:どのようにしてデジタル技術によるコンテンツ配信を強化したのでしょうか?

コルナ氏:私たちは今後も、認定放送局がオリンピックのストーリーを広めていくサポートをします。クラウド基盤の特性により、コンテンツを前例のない速度と精度で配信することが可能です。仮想化によって開かれた新しい機会を通じて、将来の新しいオリンピックのために基盤を築きます。

私たちは「セカンドスクリーン」でのデジタル体験を強化し、テレビがないためにオリンピックを視聴できないでいる人たちをモバイルデバイスでサポートします。以前はテレビでの体験にフォーカスしていましたが、今は「セカンドスクリーン」でのデジタル体験についてもっと考え、探求していく必要があります。

私たちはまだ第一歩を踏み出したにすぎません。2024年のオリンピックとその後のイベントでは、「セカンドスクリーン」のデジタル体験を充実させることが私たちの目標になります。一方、オリンピックのサポーターたちに仮想空間における交流の場を提供し、アスリートとその家族を近づけるために、競技場に大スクリーンを設置することも計画しています。

Q:テクノロジーはどのようにしてオリンピックの持続可能な発展をサポートすることができるのでしょうか?

コルナ氏:持続可能な発展は私たちにとってとても大切な目標で、クラウドコンピューティングは優れた拡張性と持続性を有し、適切に活用されればオリンピックのような大規模なイベントのキーポイントになります。東京2020オリンピックでは、世界人口の約4分の3が私たちと交流しました。

過去のオリンピックでは、IOCはサーバーのインストールを含め、IT構造をゼロから構築する必要がありましたが、現在はテクノロジーの構築からプラットフォームの構築に移行しています。これはクラウドテクノロジーを活用して、将来開催されるすべてのオリンピックにおけるユーザー体験を向上させることが可能なプラットフォームです。

もちろん、最初の1、2回目はクラウド戦略を採用するための投資が必要となりますが、第4、5回目に開催都市でイベントを開催するときには、リターンを得ることができるでしょう。

Q:テクノロジーはどのようにしてオリンピックの包摂性を向上させることができるのでしょうか?

コルナ氏:オリンピックイベントの報道とデジタルプラットフォームにより、世界中の幅広い層の視聴者に選手のストーリーやイベントについて知ってもらうことができ、これが毎回のオリンピックの包摂性を高めるものとなります。2022年の北京冬季オリンピックは世界中で放送され、これまでで最も放送時間が長い冬季オリンピックとなり、デジタルプラットフォーム上で膨大な放送量を記録しました。

さらに、新しいテクノロジーは、スポーツ施設やトレーニング方法も改善しています。私の夢は、裕福でない国や選手にテクノロジーを提供し、彼らが公平な環境で競えるようにすることです。そのために私たちは、世界各地のパートナーを有するアリババグループおよびアリババクラウドと提携しています。

コルナ氏は、オリンピックの報道におけるテクノロジーにより、世界中の幅広い層の視聴者に選手のストーリーやイベントについて知ってもらうことができ、これが毎回のオリンピックの包摂性を高めるものであると考えています。

Q:オリンピックにおける「イノベーション」と「安定性」のバランスをどのようにとっているのでしょうか?

コルナ氏:もしミスが生じた場合、世界人口の4分の3が知るところとなりますので、リスクマネジメントに関しては、非常に精緻な戦略をとっています。とはいっても、すでに多くの新しいオリンピック関連プロジェクトが進行しており、私たちもそれに対して足並みを揃える必要がありますので、これからの数年はより多くのリスクを背負っていくつもりです。

私の場合、前職で、ストリーミングサービスのバックエンド・インフラストラクチャの再構築を担当していましたが、チームの皆に私の目標を伝えたところ、法外だと言われました。しかし、バックエンド・インフラストラクチャの構築は成功し、迅速に他の国でサービスが受けられるようになりました。

私は自分自身のことを「冒険家」であると思っており、オリンピック向けのストリーミングサービスを構築することには一定のリスクがありますが、その方向に進む必要があります。

Q:テクノロジーは、オリンピック開催都市がより持続可能な発展を実現して行くのにどのように役立つでしょうか?

コルナ氏:東京2020オリンピックの期間中、テレビメディアの中枢であった国際放送センターのCO2排出量は、2016年のリオオリンピックよりも30%減少しています。放送を担当する企業の数は25%減少しましたが、放送時間の合計は30%増加しました。

2026年にセネガルの首都ダカールでサマーユースオリンピックを開催するとき、私たちはアリババクラウドをはじめとするパートナー達と一緒に、テクノロジーが達成する高レベルの成果を見ることができることを楽しみにしています。

Q:コロナウイルスの流行は、最高技術責任者の職務をより困難にさせましたか?またより注目を受けることになりましたか?

コルナ氏:その通りです。コロナウイルスの流行はチームを震撼させ、デジタルトランスフォーメーションの価値を認識させるものとなりました。最高技術責任者の職務には一般的にCEOに直接報告することが含まれますが、このポジションにおいては他の人が理解していないテクノロジーをビジネスの意思決定に役立つものに変換し、技術プロジェクトの価値を理解しやすくすることが必要だと考えています。もし「テクノロジーのためのテクノロジー」だとすれば、ビジネスにおいては何の役にも立ちません。

 

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