中国、アリババクラウドのAIでそびえ立つゴミ山に挑む

概要:固形廃棄物の増加が大きな社会問題となっている中国では、環境負荷が少ないゴミ処理方法が日々模索されている。中国国内の約10分の1の焼却施設にはアリババクラウドのAIが導入されており、炉内カメラで撮影した炎の写真をもとに画像認識で燃焼度合いを測定、炎の形状から不完全燃焼を検知し、焼却時のエネルギー効率を最適化することで有害物質の排出を抑えている。焼却だけでなく分別など様々な分野にテクノロジーを応用し、廃棄物処理業界のデジタル化を推進することで、循環型社会の実現を目指す。

AIを活用した中国の廃棄物処理施設(写真提供:アリババグループ)

 アリババクラウドは、中国でのゴミ焼却のエネルギー効率を高めるために人工知能(AI)を活用しており、中国30都市にある100以上のゴミ焼却施設(中国のゴミ焼却施設の約10分の1)の自動化を牽引しています。

 従来、ゴミ焼却は排出ガス、温度、炉内の空気圧などを常に調整する必要があり、人手と手間のかかる作業でした。アリババクラウドのバイス・プレジデントZeng Zhenyu氏は取材に対し、「AIの導入によってゴミ処理施設の運営方法を変え、作業員の負担を減らし、環境汚染を削減し、機器のメンテナンス費用を削減しました」と述べています。

 中国国内では、2020年に約2億3,510万トンの固形廃棄物が発生しています。固形廃棄物の量は2030年には3億2,600万トンまでに達する勢いで、文字通り目の前に立ちはだかった喫緊の課題となっています。

 労力と資源がかかり有害物質が排出される可能性もありますが、ゴミの山は増え続け埋立地が少なくなるなか、焼却という処理方法が選ばれています。

増加する廃棄物

中国における固形廃棄物の量は年々増加し、2030年には3億2,600万トンに達する勢い(出展:中華人民共和国国家統計局)

 エネルギーから自動車まで、さまざまな産業を変革してきたAIは、炉内カメラで撮影した炎の写真をもとに画像認識で燃焼度合いを測定します。AIアルゴリズムは、炎の形状から不完全燃焼を検知し、焼却炉の最適な効率を保ち、有害物質の排出を抑え、エネルギー出力を最大化するために、温度、酸素レベル、蒸気レベルなどの設定値を自動的に調整します。

AIによるサポート

 アリババクラウドは、AIを活用して廃棄物焼却施設の焼却管理を自動化することで、燃焼温度の安定化や効率化を図り、炉の停止・再稼働を避けています。

 「AIは今や素晴らしいアシスタントとなっています。作業員を過重な労働から解放し、処理能力を安定させることができます」と、中国南部の江西省にある廃棄物焼却施設の総責任者Wang Zonglin氏は述べています。

 かつて、Wang Zonglin氏の職場の作業員は、24時間365日焼却炉を監視し、10秒ごとにパソコンのマウスをクリックしていました。設定値調整が間に合わないと燃焼効率が30%変動し、不完全燃焼を起こします。これは、有害物質の排出にもつながりかねません。

 「空気の流れや炉に投入する廃棄物の量などの焼却条件が作業員の熟練度によって変わるため、シフトごとに燃焼効率が変動してしまいます」とWang Zonglin氏は述べています。

廃棄物処理施設の作業員と協力するアリババクラウドのエンジニア(写真提供:アリババグループ)

 中国の人手不足も問題に拍車をかけています。中国の若い世代は肉体労働に消極的なため、経験豊富な作業員への需要が高くなっています。Wang Zonglin氏の焼却施設では95%の作業は自動化されており、緊急時のみ作業員が操作します。

 とはいえ、まだまだ改善の余地はあります。環境NGO「蕪湖エコロジーセンター」のプロジェクトマネージャーの張静寧氏は、「プラスチックやゴム、布など、リサイクル可能な素材を燃やしている焼却施設もある」と述べています。

 これらの物質の熱量は高いですが、資源としてリサイクルすることで焼却を避け、二酸化炭素排出量を削減することができます。「燃焼の安定性を高めるだけでなく、ゴミの分別にもより多く投資することで、より多様な廃棄物管理を行うことができるようになる」と張静寧氏は述べています。

廃棄物からのエネルギー回収

 中国は、より環境にやさしい廃棄物処理に向かい前進しており、焼却施設の自動調整により、同じ量の廃棄物からより多くのエネルギーを回収できるようになっています。

 中国の固形廃棄物は、多くの先進国に比べて水分を多く含んでいます。分別が不完全なため、生ゴミが大量に残っているのです。果物の皮や野菜などの生ゴミは発熱量が少なく、焼却炉の燃料としては効率が悪いです。

 アリババクラウドのAIは温度を一定に保つことで、Wang Zonglin氏の焼却施設における一人当たりの発電効率を約3%向上させることができました。これは、1日あたり1万6,200キロワット時の電力増加に相当します。AI導入により、国全体では、1年間の発電量が3億6,000万キロワット時増加しています。今年年内には、中国国内の300以上の廃棄物焼却施設が、アリババクラウドのAIを導入する予定です。

 浙江大学エネルギー工学部教授のHuang Qunxing氏は、「AIは廃棄物処理業界のデジタル化という大きな課題に対する解決策のひとつです」と述べています。

 

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