2025年売上高5000億円をめざすホームセンター業界大手のコーナン、アリババグループとの連携強化で成長戦略を描く

解説:
日本企業にとって、中国の宅配会社や倉庫会社を利用するにあたっては、未知の部分がまだまだ多く、どうしても万一の不安がつきまとってしまう。しかしながら、今回、日本でも有数のホームセンター、コーナン商事とのインタービューを通して、アリババグループ傘下のスマートロジスティクス企業、菜鳥網絡(Cainiao、ツァイニャオ。以下菜鳥)を利用することへのためらいは安心感に変わり、加えて、コストやリードタイムでも大きなメリットが得られるということが、十分に理解できたのではないだろうか。

左からコーナン商事の木村氏、池島氏、菜鳥担当者の大山、村上氏、古川氏


コーナン商事(以下、コーナン)は、成長の鈍化したホームセンター(HC)業界のなかで、数少ない勢いのある企業のひとつだ。積極的な新規出店、魅力的なプライベートブランド(PB)商品の展開による既存店の成長に加え、プロの事業者向け業態では店舗数、売上高ともに同業他社を圧倒している。

同社が2019年5月に策定した長期ビジョン「New Stage 2025」では、2025年度(2026年2月期)売上高5000億円超(2020年2月期の売上高は3746億円、業界第3位)を目標に掲げ、“日本を代表する住まいと暮らしの総合企業”を目指している。

この長期ビジョンを実現するための成長戦略の柱のひとつに「日本企業からグローバル企業へ」がある。

天猫国際へ出店、「世界の市場」中国に踏み出す

コーナンと海外事業との関わりは2000年ごろ。売上比率30%以上を占めるPB商品の製造拠点を、当時、「世界の工場」と呼ばれ始めた中国に一気にシフトしたのだ。

人件費が安く、製造コストを抑えられる海外に生産拠点を求める企業は少なくない。しかし同社の場合、船会社や通関業者と直接契約し、自社通関を実施したり、行政機関、船会社、港湾荷役業者との連携のもと、荷主として輸出入航路の開拓にも取り組んできた(2015年8月堺泉北港と青島港との直航路。2017年1月上海港と堺泉北港との直航路)。自社で運営する領域を広げることで、輸入にまつわるコスト構造を精緻に把握することができ、より効率的な輸出入ルートの開拓に役立っているという。

そして2016年5月、「世界の工場」から「世界の市場」へと変貌を遂げた中国に向けた第一歩を踏み出す。アリババグループが運営する、中国最大規模の越境ECサイト『天猫国際(Tmall Global)』への出店だ。

「日本の10倍以上ある人口、経済成長率からも中国市場に魅力を感じており、EC先進国でもある中国を入り口にグローバル化を目指そう。中国を制するものが世界を制すると考えました」と、同社取締役上席執行役員の村上氏は、当時を振り返る。

また越境ECとして『Tmall Global』を選んだ背景には、圧倒的なアクティブユーザーのボリュームと、「マーケットプレイスで行われる活動を通じ、顧客体験を継続的に最適化するための消費者インサイトをデータ分析によって行っている」(村上氏)点が大きかったという。

コーナン商事 取締役上席執行役員 村上氏

2017年のダブルイレブンでは前年比778%を売り上げる

2020年11月、世界最大規模のオンライン・ショッピング・フェスティバルイベント「天猫ダブルイレブン(俗称:独身の日)」が開催された。アリババグループが運営するECプラットフォーム『天猫(Tmall)』や『淘宝網(Taobao:タオバオ)』などで、2009年から行ってきたものだが、2020年の流通総額(GMV)は、約7.7兆円にのぼった

コーナンの『Tmall Global』店舗である「KOHNAN海外旗舰店」も、2016年からダブルイレブンに参加しており、2020年はライブコマースも活用し、前年比150%(単日ベース)を売り上げた。

「参加2年目の2017年には、前年比778%というとんでもない伸びでしたから、それに比べるとおとなしい数字です。しかし3年目以降も、今年と同じような実績をあげていますから、売上げベースでは右肩上がりの成長を持続しています」

そう語るのは村上氏だ。

2020年12月、同社は『Tmall Global』と並ぶ中国有数の越境ECサイトで、同じくアリババグループ傘下の『Kaola(考拉海購)』にも出店を開始した。

両店とも、ターゲットは20代~50代の家族層。日用消耗品が全売上げの9割を占める。とくにキッチンやトイレのクリーナー、衣料用洗剤、シャンプー、毛染め剤、衛生用品が人気だという。

「ただ、日本国内と同じような売れ筋でも、ニーズにはギャップがあります」(村上氏)

たとえば衛生用品ではサイズの好みが違う。トイレの芳香剤の場合は、日本ではトイレで手を洗うのが普通だが、中国ではトイレの外で手を洗うから、タンクに直接、芳香剤を入れる。日本の家庭と同じようなイメージで、中国の消費者を見てしまうと、売れる理由、売れない理由を見誤ることになる。だからこそ、アリババグループが提供する顧客インサイトの分析が重要なのだ。

コーナン商事 取締役上席執行役員 村上氏

「日本製」だけでは通用しない、中国市場の現実

「KOHNAN海外旗舰店」は、いまでこそ十分に認知されているが、出店当初は、花王、ライオン、P&G、ユニ・チャームといった中国で人気のトップブランドを中心にした品ぞろえにも関わらず、苦戦続きだった。1年近く「こんなはずではない」(村上氏)状況が続いたという。

日本の事業者の中には、未だ“メイド・イン・ジャパン”ならば、何でも売れると認識しているところも少なくない。しかし、中国国内での販売者としての認知度と信頼がなければ、「日本製」だけでは通用しないというのが現実なのだ。

その点、「KOHNAN海外旗舰店」の場合は、ダブルイレブンへ初参加して以降、アリババグループの販促サポートのもとで、月1回のキャンペーンやクーポンの活用、SMSを利用してのアピールを地道に行い、少しずつ中国国内での認知度を高め、優れた買い物体験を提供してきた。その甲斐あって「2年目からは計画以上の伸びを示している」(村上氏)。アリババとの連携は現在も続いており、月に1回から2回、上海で定期的なミーティングを実施している。

菜鳥の利用で宅配経費は14%減、リードタイムを3分の1短縮

同社では国際物流を含む輸出入業務に関して自社運営を中心に行ってきた。しかし越境ECに関しては2019年3月から、「売る場所+お客様に届けること」を一貫して任せられる、アリババグループ傘下のスマートロジスティクス企業の菜鳥網絡(Cainiao、ツァイニャオ。以下菜鳥)の物流サービスを利用している。

「以前は、中国の港まではわれわれの直航路で運び、そこで通関を受け、委託物流業者が中国国内のお客様に届ける流れになっていました。しかし、いまでは、神戸にある菜鳥の物流倉庫に納品し、その後は菜鳥のサービスを利用している。」(村上氏)

もちろん菜鳥のサービスを利用するメリットはこれだけにとどまらない。

たとえばコストの削減だ。

「従来比で、宅配経費が14%、輸出経費の効率化で9%の削減になりました」(村上氏)

またリードタイムの短縮も大きい。インターネット上で通関手続き(デジタル通関)が完了するうえ、菜鳥の物流倉庫は在庫拠点、保税倉庫としても活用できる。以前は中国国内の配送委託先の手元に届くまでに3週間程度を要していたものが、5日から7日の短縮が実現でき、在庫コントロールの精度もアップし、余分な在庫を抱えることもなくなった。

これらにより、越境EC事業の安定した収益確保にメドがたち、商品開発、販路拡大など、越境EC事業拡大への再投資が可能になったという。

菜鳥が物流パートナーと協力し、最速・最適なルートで荷物を届けています

2020年、菜鳥の物流・サプライチェーンサービスが日本上陸

物流業務を担当する同社執行役員木村氏は、菜鳥を選んだ理由を別の視点からもあげている。

「ECに必要とされる物流機能がすべてにおいて抜きん出ています。AGV(無人搬送車)ロボットをはじめ物流業務効率化に必要なアセットが充実しているし、物流事業者3000社とパートナー契約を結び配送のキャパシティはダントツ。スマート梱包システムなどのシステム構築にも優れ、世界に230カ所以上の物流倉庫をネットワークしています」

この物流機能がどれだけすごいのか。わかりやすく示してくれるのが、菜鳥のダブルイレブン時における処理能力だ。

2019年のダブルイレブン期間中、菜鳥は「18.8億個」、2020年はさらに増え、「23.2億個」の荷物配送オーダーを処理している。

2020年から、菜鳥は本格的に日本企業向けに物流関連サービスの提供を開始した。これにより、日本企業は、ファーストマイルからラストワンマイル、倉庫管理、国際配送、トラック輸送、通関手続きにわたる、エンドツーエンドの物流・サプライチェーンサービスを利用することが可能になる。

実は、コーナンはじめ、『Tmall Global』に出店する日本企業に対しては、2019年から同様のサービスを提供し、実績を積み上げてきており、日本語での対応も含め、評価されている。

 

中国市場から東南アジアへ向かう、コーナンの越境EC展開

アリババグループが運営している東南アジアトップクラスのECプラットフォーム「Lazada」

いま世界中が、新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の有事に直面している。この状況下で、コーナンは、中国市場をどのように見ているのだろう。

村上氏は次のように見通す。

「まだまだポテンシャルが高いし、沿岸部から内陸への成長を含め、今後も安定した成長が見込めます。ただ、『KOHNAN海外旗舰店』は今年(2021年)で6年目、これまでのような勢いだけでは成長は難しいと考えています」

そこで同社が期待を寄せるのが、アリババグループの中国市場における深い知見だ。

「ウィズコロナ、アフターコロナで、ライフスタイル、生活様式も変わってきています。これからの消費行動に関する情報収集、情報交換を通じて連携も深めていきながら、何を販売していったらいいのか、より精緻な調査、分析を進めていきたい」(村上氏)

現在、同社の越境ECの売上げ規模は、日本国内のEC実績の半分程度だが、「今後は越境ECを一気に伸ばし、規模を拡大していきたい」(村上氏)という。そのために、中国でのEC成長は毎年、前年比を大きく超える売上を計画していく。

長期ビジョン「New Stage 2025」では、「日本企業からグローバル企業へ」を成長戦略のひとつとして掲げるコーナン。このグローバル化推進のカギを握るのは、中国市場はもちろんだが、より高いポテンシャルを期待できる東南アジア市場への展開だ。

東南アジア市場での事業展開は、これまでのところ、2016年にリアル店舗として1号店を出店したベトナム(現在8店舗を展開)に計画的に出店している。今後はリアル店舗の出店と合わせてアリババ傘下の東南アジアにおけるトップクラスECプラットホーム「Lazada」への出店も視野に入れているという。Lazadaでは「同時に複数国の出店が可能になる」(村上氏)、菜鳥が日本からの東南アジア6カ国への配送ができるようになり、物流面でもより進出しやすくなったことが大きく後押ししている。

コーナンにとって、アリババグループは今後の成長戦略になくてはならないパートナーだ。長期ビジョン「New Stage 2025」の実現には、菜鳥はじめアリババグループとの連携強化もその一助になるであろう。

 

(取材:戦略物流専門家・角井 亮一、編集:アリババニュース)

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