「科学技術による奇跡の未来を作る」スマートロジスティクス企業・菜鳥のイノベーション
解説:
アリババグループの物流ソリューションを担うのが菜鳥網絡(ツァイニャオ・ネットワーク)だ。3000社もの物流企業にデジタルソリューションを提供する物流プラットフォームとして、中国、そして世界の物流業界にイノベーションを起こそうとしている。ECの発展は物流の負荷を高めるが、デジタル技術による効率的なソリューションによって、大量の荷物を低コストかつ高速で配送できる。この恩恵を中国のみならず、全世界に広げるのが菜鳥の目標だ。
宅配便の末端集配所である菜鳥ステーションに、1台の小さな車が入ってきました。全長1.5メートル、全幅0.9メートルと畳約1畳分。側面には小さな扉がついています。実はこの車、アリババグループのスマートロジスティクス企業である菜鳥(ツァイニャオ)が開発した配達ロボット「小G(ショウG)」です。菜鳥ステーションで荷物を詰め込んだ小Gは住宅街に向かってゆっくりと出発しました。とあるマンションの下に停車すると、入口からパジャマを着た住民が出てきました。小Gに受け取りコードを入力すると、側面の小さな扉が開きました。荷物を受け取った住民が立ち去ると、小Gはセンサーによって全方位の状況は把握している為、道行く人や障害物を器用に避けて次の配達先を目指し動き始めます。
菜鳥の本拠がある中国・浙江省杭州市では小Gによる配送は今やおなじみの光景となりました。小Gは巨大コンテナ船やジェット機のような驚天動地なものではなく、派手な外装もしていません。移動速度もゆったりとしていますが、菜鳥が手がける物流イノベーションの多くは一般市民の目に触れない、縁の下の力持ちです。しかし地味に見える小Gでも、菜鳥のイノベーションの中ではもっとも人目に触れるものと言えるかもしれません。
皆さんは菜鳥をご存知でしょうか。2013年に創設された後、全世界の物流企業をシームレスにつなぐ、物流エコシステムを開発してきた企業です。末端配送の一部を担う小Gは、菜鳥の物流エコシステムの一部を担っているに過ぎません。物流は多くの企業がかかわり、膨大な作業が発生する業界です。菜鳥はこの物流業界にデジタルソリューションを提供しているのです。その役割はスマートフォンのオープンソースOS「アンドロイド」に例えられます。世界には多くの端末メーカーがありますが、ほとんどの企業は同じOSを共有しています。菜鳥もオープンでスマートな物流システムを開発し、電子送り状やデジタル通関などのサービスを世界各地にある多数のパートナーに提供してきました。
北京大学光華学院投資管理のジェフリー・トーソン教授(Jeffrey Towson)は菜鳥の業績を次のように評価しています。
「菜鳥が取り組むテーマがどれほど巨大なものか、現時点では理解することは難しいかもしれません。しかし、その成果はおそらく中国のデジタル化において最も重要なイノベーションなのです」
オープンな物流プラットフォームの役割
菜鳥はいわゆる物流企業ではなく、オープン・プラットフォームと呼ぶべき存在なのです。中国内外の3000社以上もの物流企業をパートナーとし、それらの企業で働く300万人もの従業員が菜鳥のソリューションを活用しています。中国物流企業の上位15社、世界物流企業の上位100社はすべて菜鳥のパートナー企業です。菜鳥にはパートナー企業の物流データがリアルタイムに集積されています。それによりクライアントは最適な配送方式を選択することが可能となるのです。
菜鳥のプラットフォームを通じて中国の物流は低コストかつ高速配送の両立に成功しました。中国国内に荷物を送る場合でも24時間以内に到着するようになりました。しかもそのコストは重量1kgの宅配便の場合、わずか2元(約32円)弱という安さです。現在、中国の人件費が上昇している中、物流コストの効率化によって中国企業の事業成長をサポートしているのです。
菜鳥はこの物流品質をグローバルに展開しようとしています。目標は、3ドル(約312円)のコストで72時間以内に全世界のあらゆる地域への配送を可能にすることです。現在では上海からロンドンまで500グラムの宅配便を送ると、コストは約100ドル(約1万400円)で届くまでに5日間かかると思うと、菜鳥の目標がどれほど野心的なのかご理解いただけるのではないでしょうか。
低コストかつ高速な物流がグローバルで成立すれば、全世界の産業に大きなインパクトを与えます。ペルーのコーヒー農家、チャドの織物職人、インドの医療機器メーカー等、こうした発展途上国の企業が全世界の消費者に直接商品を販売、配送できるようになるのです。
低コストかつ高速配送、その秘密とは
菜鳥はいかにして低コストかつ高速の物流を実現しているのでしょうか。それは徹底的なデジタル化によるものです。菜鳥の倉庫にはさまざまなセンサーやカメラが備え付けられていますし、トラックや時には荷物にまでGPS機器が設置されています。すべての情報をデジタル化することにより、無駄を省く改善が実現できるのです。
世界最大のEC(電子商取引)市場である中国にとって、菜鳥による変革はきわめて重要なものでした。物流がECのネックとなっていたからです。街角に山積みされた宅配便と、その山をひっくり返しながら荷物を探す配送員はかつての中国ではよく見られた光景でした。さらに、宅配便の包装においても、スマートフォンの画面保護ガラスを1枚送る為に、靴箱サイズのダンボールを使用し養生材やエアバックを敷き詰めてという作業が横行していました。菜鳥のソリューションはこうした問題の解決につとめました。
また、電子送り状一つをとってもそうです。過去6年間で菜鳥のシステムで利用された電子送り状の数は4000億件。まさに「塵も積もれば山となる」。「1件あたり0.1元(約1.6円)を節約したとすれば、どれほどの節約になるでしょうか」と、菜鳥の万霖(ワンリン)CEOは指摘しました。
万霖はテキサス大学オースティン校で博士号を取得後、米国の大手EC企業で9年間務め、グローバル物流ディレクターという要職に就いていました。2014年に菜鳥にジョインし、新たな物流革命を進める担い手となりました。
コロナ対策で一気にレベルアップ、夢の未来を見すえた変革
アリババグループ以外のネットショッピングモールで販売された商品の配送であっても物流ソリューションを提供しますし、アリペイ以外の決済手段もサポートします。しかし、アリババエコシステムと呼ばれる各種サービスを組み合わせることで、その効率が最大化するのも事実です。たとえば国を超えた越境ECのケースでは、外国の消費者がアリババグループのショッピングモールで商品を注文し、菜鳥のソリューションで海外に出荷された場合、一部の国ではデジタル通関というサポートが受けられます。荷物を載せた貨物機が移動している間にデジタルデータで先に通関手続きを済ませることができるのです。これによって配送にかかる時間は一気に短縮されます。
この菜鳥の能力は新型コロナウイルスという危機でも発揮されました。2020年1月、中国ではコロナウイルス流行時に世界各国から医療物資を中国に輸送するグリーンルートを開通させ、世界39カ国・地域から中国に6900万トンもの物資を輸送しました。
そして中国での流行が沈静化し、世界各国の感染が悪化した時には、中国で製造された医療物資を世界に送りました。新型コロナウイルスによって航空会社の運休によって航空便の輸送が滞っていた中、菜鳥は自社のチャーター便の数を260機から1260機へと急増させ、輸送能力を強化しました。こうした世界150カ国以上の国と地域に2億5000万件もの医療物資を配送したのです。
万CEOは「新型コロナウイルスの流行を経て、人々に改めて物流インフラの重要性を理解していただきました。菜鳥にとっても危機に対応するべく、一気にレベルアップし、本来ならば3年先に予定していた成長を先取りしたような形となりました」と、危機を機会に菜鳥のイノベーション能力が一気に強化されたことを明かしています。
そして、菜鳥のイノベーションはまだまだ止まりません。トーソン教授が次のステージは人工知能(AI)の活用だと指摘しています。配送ロボットやトラックが自律的に行動する自動運転技術の活用です。SF小説のような話ですが、中国ではレストランでの配膳ロボットやホテルの受付ロボットがすでに普及しつつあります。中国は先進技術の試験場という側面もあるのです。
「私たちは科学技術による奇跡の未来を作ろうとしているのです」と万CEO。
※1ドル=104円、1元=16円のレートで換算(2020年12月時点)
解説・翻訳協力:高口康太、編集:AlibabaNews 編集部
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