“独身の日”の知られざるテーマ、アリババと資生堂が共同キャンペーン

 毎年11月11日には年間最大のショッピングセールである「天猫ダブルイレブン・ショッピングフェスティバル」(以下、「ダブルイレブン」)が実施されます。日本では「独身の日」という訳語でよく知られています。新型コロナウイルスの流行など厳しい環境が続きますが、無事、成功裏に終えることができました。

 さて、「ダブルイレブン」の目的は売上だけではありません。新規参入ブランドの認知向上、膨大なアクセス数に耐える強力なクラウドコンピューティング能力の構築やAR(拡張現実)の実装など買い物体験を向上させるための新たなテクノロジーの導入や普及の場としての役割を果たしてきました。

 そして、近年では脱炭素とエコの取り組みを広めるイベントとしての役割を強めています。2022年の「ダブルイレブン」で、アリババグループはどのような取り組みを行ったのか、お伝えします。

パートナー企業と消費者を巻き込む脱炭素キャンペーン

「環境に優しい商品を買いたいけど、何を買えばいいのかわからない」

 環境意識の高い消費者の悩みです。そこでアリババは環境負荷の低い製品を「緑色低炭素友好商品」として認定しました。省電力のエアコンや包装を簡素化した商品など、計163万点が認証を取得しました。この数は前年から倍増しています。また、低炭素の取り組みに賛同したブランドは昨年の13ブランドから40ブランドへと増加しています。こうしたエコな商品のうち、2製品が売上1億元(約20億円)を突破、188製品が1000万元(約2億円)を超えました(10月24日から11月2日、「ダブルイレブン」前半での統計)。

 アリババグループは今後もパートナー企業と協力し、脱炭素の取り組みを強化していきます。その一例が先日、日本化粧品大手の資生堂と交わされた脱炭素友好アクションの戦略提携です。詰め替えパックや自立するパッケージなどの導入によって、プラスチックなどの包装材料削減を目的として、11月15日から24日までの10日間、共同で「88脱炭素デー――詰め替えパック・テーマデー」と題したキャンペーンを行いました。

 これはどういうキャンペーンだったのでしょうか?まず、その前提として「88脱炭素アカウント」について説明させてください。今年8月に実装されたアリババの新サービスですが、食事の際に割りばしを使わなかった、宅配便のダンボールをリサイクルに出したというエコ・アクションを取ったと申告すると、炭素排出量削減分のポイントを提供するものです。現在、企業活動による炭素排出量を可視化するカーボンフットプリントが注目を集めていますが、一人ひとりの消費者も脱炭素の取り組みとその成果を可視化できるようにと考えられた機能なのです。

 さて、キャンペーンでは、150kg分のポイントと交換できるギフトボックスを用意。キャンペーン中は毎晩8時8分に新たなギフトボックスが公開されました。日々のエコな行動がここでしかもらえないグッズにつながるわけです。

 資生堂中国地域の藤原憲太郎CEO(最高経営責任者)は「創業150周年の歴史的な節目を迎えた今、私たちは未来の目標はたんなる成長ではなく、エコな成長であるとはっきり認識しています」と、取り組みの意義を語りました。

 アリババグループの董本洪(クリス・トン)CMO(最高市場官)は「アリババと資生堂中国は共同で初となる88脱炭素デーを実施し、消費者に脱炭素を呼びかけました。私たちは「脱炭素友好アクション」の提唱企業として、詰め替えボトルの普及から着手し、プラットフォーム全体の脱炭素マインドを高めて参ります」とコメントしています。

 クリス・トンCMOのコメントにあった「脱炭素友好アクション」とは、今年8月にアリババとメーカー19社が協同で立ち上げたキャンペーンです。商品、物流、マーケティングという3つの視角からエコに取り組んでいきます。

AIに無人配送車、ハイテクで物流&クラウドをグリーンに

 環境負荷となるのは商品だけではありません。その商品が消費者の手元に届くまでの物流での脱炭素をいかに実現するかも課題です。アリババグループの物流ソリューション支援企業であるツァイニャオ(菜鳥)はテクノロジーの力で、この問題に取り組みました。

 紙を使わない電子送り状の採用、適切なサイズのダンボールをAI(人工知能)が選定することで包装材を削減、輸送用の箱を使わず商品のオリジナルパッケージでの配送、AIによるルートの適切化や倉庫在庫の適正化、400校もの大学で無人配送車「小蛮驢(シャオマンリュ)」の導入……など、各種の施策に取り組みました。特に包装材の削減効果は顕著で、平均15%の削減に成功しています。ダブルイレブンでは計15万種以上の商品がエコ配送によって届けられました。

 ツァイニャオはエコ物流に協力する企業とともに「50グラム脱炭素同盟」を結成しました。さまざまな手法と技術を駆使することで、配送物1件あたり50グラムの脱炭素を実現することが目標です。

 消費者にもエコの意識が高まっています。宅配拠点であるツァイニャオ・ステーションでは包装用ダンボールのリサイクル回収を実施しています。回収されたダンボールはAIによる自動識別装置で分類され、破損していないものは個人ユーザーが宅配便を送る時にダンボールとして活用されます。「ダブルイレブン」期間中、平均で日に10万人以上が再利用に協力しました。ダンボールとして利用していないものは製紙工場でノートに加工され、慈善団体を通じて小学校に寄付しています。

菜鳥がAIアルゴリズムの活用により梱包サイズを最適化、梱包材の使用量を削減。消費者による段ボールの回収と再利用を促進している。

 この再回収では、協力者には卵などのギフトがもらえるお得な仕組みもあります。平均で消費者一人当たり3個のダンボールがリサイクル回収されました。若者は特にエコの意識が高く、大学生の場合は平均4個が回収されています。全国13万カ所のツァイニャオ・ステーションが回収拠点となりましたが、合計で前年比50%増となる600万箱が回収されたと推定されています。

 また、一般の消費者には見えないところでも脱炭素の取り組みは進んでいます。アリババグループのクラウドコンピューティング部門を担うアリババ・クラウドは今年の「ダブルイレブン」ではクリーンエネルギーの利用量が前年から倍増し、3200万キロワット時を超えました。華南地区でアリババ・クラウド最大となる河源データセンタアリババ・クラウドンエネルギーの利用率100%を達成しています。

 また、エネルギー効率の向上にも取り組んでいます。アリババが自主開発した液沈冷却技術によってPUE(電力使用効率)は1.09と世界トップクラスの省エネ性能を実現しました。また、アリババ・クラウドは「エネルギーエキスパート」(能耗宝)という機能を実装しています。企業のカーボンフットプリントを集計し、温室効果ガス排出量を可視化するソリューションです。すでに製紙業界、食品業界など多くの業界で、40以上もの企業に導入されています。

高齢者と農村の支援も

 脱炭素と並ぶ社会貢献の取り組みとして、高齢者支援、農村支援があります。

 アリババグループの中国デジタルコマース事業群の戴珊(ダイシャン)総裁は、「ダブルイレブン」の記者会見において、「高齢者の生活課題を解決し、社会に善意を届けたい」と発言しています。

 その試みの一つが中国老人学・老人医学学会と共同で実施した黄扶手計画(てすりプロジェクト)です。高齢者にとって転倒は一大事。自宅内で転倒したことがきっかけで寝たきりになってしまった人も少なくありません。このプロジェクトでは5万個の手すりを無料で寄贈するもので、自宅内での設置まで無料で行います。他にも無料聴力検査と補聴器無料提供も行われました。

てすりプロジェクトを通じて、消費者は0.1元でてすりを購入でき無料の訪問取り付けサービスも受けられる

 農村支援としては「農貨多一件」(農作物をもう一つ)をテーマとした取り組みが実施されました。「ダブルイレブン」では動画配信によるネット販売、いわゆるライブコマースが盛んに実施されましたが、家電や化粧品などを紹介する配信でも、おまけとして1件の農作物を紹介するというものです。

 10月31日から11月7日の統計ですが、この取り組みによって1664万人が3549万件の農作物を購入しました。中国政府から重点支援対象に指定されている貧困地域の販売額は前年同期比35%の増加です。

畑からスマートフォン1台でライブ配信し農作物を販売する農家さん

 ネットショッピングを通じて農村から直接販売されれば、農民は卸業者を通す通常の出荷よりも多くの利益を得ることができます。「ダブルイレブン」を契機に農村直販の野菜、果物にファンがつけば、農村にとっては長期的な助けとなるのです。

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